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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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エピローグ2



 白馬に乗った海人と愛里の後ろ姿に被せて、エンドロールが流れる。歌はスピッツというグループの『空も飛べるはず』と言う曲だ。
「今日は招待してくれてありがとう! 感動したわ!」
 観客の女性は白いハンカチで目を押さえている。
「なんせ実話に基づいた映画だからね。鳥肌が立ちっぱなしだったよ。これって、数十年前に実際に起こった事なんだろ?」
 新型L・D・Fで守られたこの映画館には、政府関係者を始め色々な方面の人たちが招待されていた。ここは、中国の北京があった場所に建設されたアミューズメントパークである。
 映画が終わっても暫く誰も動かなかったが、やがてひとり、またひとりと立ち上がり盛大なスタンディングオベーションに発展していく。
 しばらくしてスクリーンの前に、ヒゲを顔一面に生やした映画監督が姿を現す。この男は映画監督の他にも多彩な才能を持っていた。
 待っていたかのように歓声が上がり、会場が割れんばかりの拍手に包まれる。政府全面協力の超大作だけあって、エンドロールはまだまだ続きそうだ。
「ごほん。えー皆様、今日は『選ばれし者たち』の特別試写会にお集まりいただき、本当にありがとうございました。この映画は、現在集められるだけのデータを全て揃えた後、メモリアルという意味でも歴史に忠実に制作されました。そう、私たちは、私たちを残してくれた祖先に敬意を払わなければならないのです」
 ここで何かを思い返すように目を閉じ、間を置いた。
「現在『世界政府エターナル』は四国から日本、日本から中国大陸とその生活領域を広げています。当然これからも、さらに発展して行くことでしょう。……でも、ひとつ残念な事があります。映画の中心となった実際の地下施設はもう見る事ができません。なぜなら、核の影響による地殻変動により、今は地中奥深くに静かに眠っているからです」
 拍手はいつのまにか止み、会場はしーんと静まり返っている。
「あれから私たちの祖先は、想像もできないような苦難を乗り越え、知恵をしぼり、この様な文明を再び作り上げるに至りました。ひょっとしたら遠い世界のどこかに、まだ生き残っている人々がいるかもしれませんね。いつか会えることを期待しましょう」
 監督はここで一息つき、バックステージの方にちらっと目を走らせる。
「それでは、お待たせしました! ここでサプライズゲストの登場です! 主人公役の海人を演じてくれた東条くんと、颯太役の立花くんです。どうぞ!」
 スポットライトを浴びながらステージ中央に歩き出したのは、長身の若者と小柄な可愛い青年だった。彼らの着ているブレザーの胸には、『世界政府エターナル』の国旗が縫い付けられている。
 ダビデの星の中に方舟。そしてその船のマストには(World Government Eternal)の頭文字、『W.G.E』の文字が書かれていた。
「えー、前評判通りであれなんですが、なんと、この二人は映画に出てくる東条海人さんと、立花颯太さんの本当のご子孫です。主人公の海人さんは映画通りに愛里さんと結婚し、幸せな家庭を作りました。颯太さんも美奈さんと結婚し、子供をたくさん育てました」
 何と粋な配役だろうか。監督はここで東条に金色のマイクを渡した。
「こんばんは。東条海人役の東条拓斗です。なんかややこしいですね」
 白い歯を見せた拓斗に合わせて、笑い声が起こる。
「残念ながら祖父は事故で他界してしまいましたが、きっと天国で私の演技を見ていてくれたと思います。そのおかげか、気持ちがぐいぐいと伝わるような演技ができたような気がします。颯太役の彼とは、本当の先輩と後輩のように撮影後も仲良く――してるよね? おい、なに首振ってるんだよ。いやあ本当は仲がいいんですよ。では皆さん、今日は本当にありがとうございました! ほら、おまえの番だぞ」
 笑いと、大きな拍手が起こる。拓斗はマイクを隣の藤馬に渡す。
「どうも、立花藤馬です。なんか照れますね。ええと、颯太の役は本当に難しかったです。監督には『主人公を食う勢いでやれ!』と毎回叱られてました」
 くすくすと笑い声が起こる。監督は頭を掻きながら苦笑いしていた。
「この大事な役を上手く演じられたかどうかは、お客様に判断して頂きたいと思います。ありがたい事に、スタッフの皆さんや他の俳優さんからアドバイスをもらいながら、何とかクランクアップまでこぎつけました。この映画が、皆さまの心にずっと残る作品になればいいなと思っています。今日は来ていただいて、本当にありがとうございました!」
 再び大きな拍手と歓声が上がった。
「さて、では『でしゃばりなカントク』にマイクが返ってきたところで、そろそろお時間となりました。彼らにも我々と同じ、卓越した遺伝子が受け継がれている事でしょう。おっと、最後に私からひとつ。もうお気づきの方もおられるとは思いますが、私の名前は那智と言います。見てお分かり頂けるように、見事にアインシュタイン博士に似てしまいました。いい意味で、遺伝子というのは実に興味深いものですね。それでは皆様、え? なに? 来てる?」
 スタッフに耳打ちされた那智監督は、動揺してマイクが入っているのに気付いていないようだ。
 観客がざわざわしはじめる。
 突然、一筋のスポットライトが映画館の一番後ろを照らす。ライトの中心に、車椅子に乗った上品な身なりの人物が浮かび上がる。
「病院から――わざわざ来てくれたんですか!」
 驚いた拓斗の顔が、みるみる笑顔に変わっていく。
 彼の視線の先には……。

 そこには今年で九十歳を迎えた愛里の姿が、暖かい色のライトに浮かび上がっていた。左手の薬指に光る指輪は、海人が白馬の上で贈ったものらしい。
 彼女は今は亡き夫の遺影を大事そうに抱え、昔と変わらぬ優しい微笑みを浮かべている。対照的に、その写真に写っている海人は少し気難しい顔をしているように見える。
 ひとつ、またひとつと拍手が扇が開くように広がっていく。今日一番の大きな拍手が会場を包む中、父親のズボンの裾を掴んでいた男の子が車椅子の方を覗き込み、父に小声でささやいた。

「お父さん。あの写真の人ね、僕に向かって今ウインクしたよ」




 了