小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

INDEX|9ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

ただ、友のため



 カズンが死んだのと同じ夜。宰相であるカズンの死という大きな話題に比べてみれば話題性にかけるリシエールの下級騎士が一人殺害されていた。
 彼の傷が背中にあったこともあり、敵から逃げようとして斬られたのではないか。背後を取られたのではないかなど、様々な憶測が流れたが、どちらにしても騎士としては大変不名誉な死に方をしたため、彼はあまり丁重に葬られることはなかった。
 ただ、名誉だの、不名誉だのと言い出すような人間というのは大体が他人だ。彼の友人からしてみれば彼が死んだという事実に対してみれば、名誉だ不名誉だなどということはどうでもいい。気になるのは、誰に殺されたのかということだ。
 殺害された下級騎士と昔なじみであったリシエール義勇軍の軍団長、シエルにとってもこのことは非常に気にかかる問題だった。
 彼の葬儀が終わった後独自に調査を進めていくうちに、シエルはカズンの殺害と下級騎士の殺害にはなんらかの因果関係があるのではないかと考え始めていた。しかし、その話をできそうな相手は生憎と周りにはいない。下級騎士の死に様を不名誉と言って一切調査をする気のない騎士団のお歴々に言ったところで取り合ってはもらえないだろうし、尊敬する先輩であるヘクトールはジュロメ要塞の守備についていてこの街にいない。それにこういう時相談できそうな最後の一人である幼なじみのキャシーは、恋人がカズン殺害容疑で捕まってしまったユリウスの心のケアで忙しい。
 と、そこまで考えたところで、シエルは面識はあまりないがこの件についてなんらかの事情を知っていそうな人物に思い当たった。
「ご苦労さん。」
「ああ、これはシエル殿。どうされました?」
「いや。毎晩牢番っていうのも大変だろうと思ってさ。」
 シエルは腹を割って話をできるような知り合いは少ないが、比較的社交的な性格であるため、知り合いは多い。それこそりシエール義勇軍はもちろん、街中の酒場で飲んでいる日雇い人足にもグランボルカ軍人にも割りと顔が利く。今晩シエルが訪ねた牢番のアインも、何度か飲んだことのある飲み仲間だ。
「確かに眠れないのは辛いですが、これも仕事ですからな。」
「真面目だねえ。ところで、アイン殿。ここに例の女将軍がいると聞いてきたんだが。」
「ああ・・・いますよ。囚人のくせに飄々としていてこっちを小馬鹿にしているみたいな感じで嫌な女ですよ。」
「その嫌な女に一泡吹かせたいと思わないか?」
「え?」
「あの女、あの身体を使って、あろうことか俺の主人であるユリウス様を誑かしていたわけだ。」
「噂は聞いてましたけど・・・本当だったんですね。」
「まあね。そこで、なあ。俺が主人に変わって、あの女を辱めてやろうかと思ってな。・・・わかるだろ?」
 そう言って、シエルは懐から金貨を数枚取り出すと牢番にそれを握らせた。
「ああ、なるほど。でももしそんなことがバレたら・・・」
「心配はいらねえよ。牢の中の事なんか報告書を握りつぶしちまえばいいだけだ。な?少しだけ俺をあの女の牢に入れちゃくれないか?」
「シエル殿も好きものですな。」
「性格はともかく、あの身体だ。どうせあの女は死刑になるんだから、死ぬ前に一度くらいと思っても別に変じゃないだろ。」
「俺は、遠慮したいですがね。なんでもあの女、魔法が使えなくてもステゴロで相当強いっていうじゃないですか。」
「それを屈服させるから楽しいんだろう。」
「やっぱり、軍団長になるような人は違いますね・・・。ただ、朝までには出て行ってくださいよ。交代が来る前には。」
「十分。」
 交渉がまとまったところで、さっそく牢番は地下牢の廊下に続く扉を開いてシエルを中に招き入れる。
「一番奥の部屋なんですがね。リュリュ様からの心づけとかで、とても牢屋とは思えないような内装になっていまして。まあ、そういうことをするのに都合がいい、フカフカのベッドなんかもありますよ。」
「なるほど、それは都合がいいな。・・・ところでアイン殿。盗み聞きや覗き見は・・・。」
「残念ながら覗き穴なんてないんですよ。それに扉が分厚くて音なんて漏れやしない。なんでもそれもリュリュ様の命令とかでね。まあ、鍵はこっちで持ってるんで開けることはできるんですが。」
 そんな話をしているうちに問題の一番奥の部屋。アリスの牢の前へとたどりついた。
 確かに他の牢とは違う重厚なドアは覗くことはもちろん。まわりの石壁も手伝って音も漏れそうにない。
「さ、どうぞ。交代が来る30分前には迎えに来ますんで、それまでには事を済ませておいてくださいね。」
 そう言って下卑た笑みを浮かべると、門番は手早く鍵を開け、押しこむようにしてシエルを中に入れるとすぐさま鍵をかけた。
「お初・・・でもないよな?自己紹介はいらないくらいには知ってもらえているか?」
 まるでシエルを待っていたかのような面持ちでベッドに座っていたアリスに、シエルがそう声をかけると、アリスは一度軽く頷いた。
「ええ、ユリウスと一緒にいるときに何度か会っていますよね。それに軍議の時にも。それで今日はなんの御用でしょう。まさか本当に私を陵辱しに来たというわけではないのでしょう?」
「聞こえていたのか。」
「ええ。魔法とは関係なく、生まれつき耳はいいものですから。」
 アリスの言葉を聞いたシエルは肩をすくめてやれやれと笑う。
「恐ろしい話だな。もちろん俺にそんなつもりはない。そんなことをしたら、ユリウスの魔法で塵にされてしまうからな。・・とは言え、そういう状況だったという証言は必要だろうから、君の魔法でドアの外で聞き耳を立てている牢番にそれらしい声を聞かせてやってほしいんだ。」
 そう言ってシエルは先ほど部屋に押し込まれる寸前に手に握りこんでいたものをアリスに見せた。
「結界石?大事な結界を崩すなんて、随分と手クセの悪い軍団長ですね。」
 クスクスと笑って、アリスが一度指を振る。
「あら。本当に魔法が使えた。いいんですか?結構使い勝手のいい魔法なんですよ。私の魔法は。」
「その魔法で俺をこの場で襲えば脱出することはできるが、君はそんなことしないだろ。ユリウスやリュリュ様。それにアレクシス様のためにもさ。」
「なんというか、鏡を見ているようで嫌ですね。あなたと話していると気分が悪くなります。」
「君が苦労してきたように、俺もそれなりに苦労をしてきたんでね。同族嫌悪ってやつだろ。・・・さて、今日は君に聞きたいことがあって来た。」
「なんでしょう。」
「ガミディ宰相・・・いや、君の仲間のカズンを殺したのは誰だとおもう。」
「私だということになっているのでしょう?」
「俺は君じゃないと思っている。そしておそらく君には犯人がわかっている。」
「・・・・・・ふうん。ただの変態騎士というわけではないのね。」
「いや。いやいやいや、ちょっと待て。今ものすごく聞き捨てならない呼称があったんだが。」
「あら、ごめんなさい。キャシーがあなたのことをそう呼んでいたものだから。」
「あいつ・・・まあいい。で、どうなんだ?見当はついているのか?」