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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

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「そうね。こちらにも反アレク派、リュリュ様派、マタイサ至上主義と色々ありますけど、カズンは優秀でしたから例え私やカズンが憎くてもすぐに殺すようなことをすることはしないでしょうね。そういうのは戦後の処理のどさくさにでもすれば良いわけですし。」
「そうするとやっぱりグランボルカ側ではなく、こちら側の人間か。まいったな、おおっぴらにするとリシエールの立場がなくなっちまう。」
「あまり驚かないんですね。それにわざとらしい。」
「君とユリウスの交際を快く思わない老人の心当たりには事欠かないからな。そもそも、こちらからは文官を出していないからカズンの優秀さを知る人間も、老人たちに進言する人間もいない。大方、ユリウスから君を引き離し、さらにグランボルカの中に火種を作りアレクシス皇子の影響力を弱めようとした老人の軽挙妄動だろうな。」
「ただ、問題は私の姿をどうやって見せたかということなんですよ。確か、リシエールには変身する魔法を持つ人間はいないはずですし、グランボルカにもそれができそうな人間はいません。これはどう覆します?」
「俺ならケット・シーを使う。」
「確かにケット・シーならできるでようけど、メイを疑うというならそれはお門違いですよ。私のことを嫌いだとしてもあの子はそういう事ができる子じゃないですから。」
「もちろんわかってる。それにメイ姐さんを疑ったりしたらヘクトールさんに叱られちまうからな。」
「メイの妹達もちがいますよ。ジュネは頭のいい子ですし、ジュラは少し頭が弱いけど、それでも物事の善悪の区別がつかない子ではないです。」
「それもわかってる。実は、カズンが殺された日に俺の友人も殺されてな。そいつが入れ揚げていた娼婦がケット・シーだったんだ。目撃者に君の姿をみせたのはそのケット・シーだろう。問題は、そのケット・シーもすでに殺されているだろうってことだな。証人が存在していないわけだ。」
「そもそも、証人がでてきたところで、その証言を元に逮捕なんてことはできませんよ。この問題は私がカズンを殺したということで国内の、しかもアレクシスの下の事件ということで収まっていますけど、リシエールが関与していたということになれば人類同士での争いの種になります。」
「まあ証人がいないってことは、逆に言えば話が漏れる心配がないってことだからな。犯人についての目星は付いているからこっちで当たりをつけて始末するさ。・・・この期に及んで君が黙って捕まっているということはアレクシス皇子にはうまくとりなしてくれるんだろう?」
「とりなすも何も、リシエールと争っていいことなんてありませんから。犯人の始末さえつけば、アレクシスはリシエールに対してどうこうするつもりはないと思いますよ。・・・ちなみに、目星をつけてある犯人っていうのはどなたなんですか?」
「ウェルサ子爵という、旧体制の重鎮だよ。極端なタカ派でね。グランボルカもケット・シーも大嫌いなんだ。最近ではリシエールを取り戻す同志の集いなんて胡散臭いカルトの主催もしているらしい。そのメンバーの中にも今回の件に噛んでいる人間がいるだろうからそいつらも始末しないとな。」
「なるほど。ウェルサ子爵ですか。覚えました。」
「覚えましたって・・・うおっ何をするんだ。」
 一瞬の隙を突いて、アリスはシエルの後ろに回り込んで腕を取るとそのまま彼を床に組み敷いた。
「大丈夫。殺しはしませんから。あなたと牢番には少し眠ってもらって、その間に私が始末をつけるだけです。」
「バカか君は!俺と牢番を眠らせたとしたって、ウェルサの居場所もわからないのにどうする気だ。」
「ああ、そういえばそうでした。ではあなたに訪ねましょう。ウェルサ子爵の居場所はどこですか?」
「この状態でしゃべる奴はいないだろ・・・。」
「腕を一本もらいましょうか?」
「にこやかな声で恐ろしいことを言うな!・・・もし君がここを抜けだしてウェルサに手を出せば、アレクシス皇子やリュリュ皇女にだって・・・。」
「あら、だったら。それこそ目撃者を消せばいいわよね。」
 つい先程までのにこやかさを感じさせる声色から一変した迫力のある声色でアリスがシエルの腕にかけている力を強める。
「馬鹿か。俺が今日ここに来ていることは、ちゃんと部下に言ってある。証拠なんて消せるわけ無いだろう。」
「嘘ね。声が震えてるわ。」
「目撃者は別に俺や牢番だけじゃないんだ。街でお前を見かけた人間を片っ端から殺すのか?とても正気とは思えないな。」
「あなたは、正気でいられるの?例えばヘクトール殿がグランボルカ人に殺されたら?それがエドなら!ユリウスなら!キャシーなら!?」
 叫ぶようにそう言って、アリスは嗚咽を漏らした。
「私達は、長いこと一緒にやってきた。家族みたいなものなのよ・・・。それをいきなり訳の分からない理由で殺されて!あなたそれで、我慢できるの?」
「・・・だとしても無謀だ。それに被害だって大きくなりすぎる。ウェルサの周りで働いている人間の中には何も知らない人間だって多いし、その人達にも家族がいる。カズンが家族だったって言うなら、家族を奪われる苦しみは君が一番わかっているだろう。」
「・・・・・・だって、私だってどうしたらいいか・・・わからないわよ。一人ぼっちでこんなところに押し込まれて。カズンを殺したんだろうって責められて、本当の事も言えなくて!仇ぐらい取ってやらなきゃ・・・カズンが可哀想・・・。」
 アリスは大声で泣きだした。
 泣きだした拍子に腕を開放されたが、シエルはその後も腰にアリスを乗せたままの状態でじっと動かず待った。そして、5分ほど泣き明かしたところで、アリスが落ち着いてきたのを見計らって口を開いた。
「・・・なんとかしよう。」
「え・・・?」
「なんとか君がここを抜けだしてウェルサを始末できるように段取りをつける。だから2、3日時間をくれ。ウェルサだけじゃなくて、今回の件を画策した人間をすべて始末するには、どちらにしても俺だけでは手が足りない。相手が相手だけにリシエールの中でこの件を手伝ってもらえる人間を探すのは困難だ。だから君にも手伝ってもらう。それでいいか?」
「え・・・ええ。」
「とりあえずどいてくれ。可愛い声で泣く女の尻が腰の上にあると変な気分になるし、どうにも落ち着かない。俺も男なんでね」
「ご、ごめんなさい!」
 アリスは顔を真っ赤にして謝ると立ち上がってベッドに座り直した。
「それで・・本当に私も手伝っていいんですか?」
「ああ。人手が足りないのは本当だし、君にこんな話をした責任もあるからな。ただ、もし見つかったらアレクシス皇子やリュリュ皇女に迷惑をかけることになるって事は忘れるな。行動をするときは慎重にな。」
「まあ、その場合は最悪出奔しますよ。まだ死ねませんからね。」
「馬鹿。君が無実を晴らさないまま出奔なんてしたらそれこそ皇子や皇女に心配をかけるだろう。カズンが君の家族だったように、彼らにとっても君は家族同然だろうが。自分の気持ちを優先したいというのはわかるが、周りの人間の気持ちもきちんと考えろ。」
「・・・本当に、嫌な人ですね。あなたは。」
(そんなこと、カズンに散々言われてわかってますよ。)