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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 6 娼婦と騎士

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「それって一体どういうことですか!犯人を探さなくちゃ、アリスの無実を証明できない!」
「証明なんてする必要はないわ。さあ、行きましょうか。」
 アリスは最後にそっけなくそう言うと、兵士達と共に酒場を出て行ってしまった。
「一体どういうことですか・・・僕は、そんなに頼りないですか。」
 ユリウスは床に膝をつくと、誰も居ない酒場で独りで泣いた。



「ユリウス、起きてる?開けるわよ・・・って、ユリウス!」
 アリスが捕縛された次の日の朝、キャシーとリュリュがユリウスの部屋を訪ねると、目を真っ赤に腫らして、目の下に隈を作った焦燥しきった様子のユリウスが自室の机に向かっていた。
「何してるの、あなた。」
「何って・・・アリスの無実を証明するためにはどうしたらいいか考えているんだよ。」
「そんな状態で考えたっていい案が出るわけないでしょう。はぁ・・・。リュリュ、悪いけどお湯をもらってきてくれる?それと清潔なタオルも。」
「わかりましたのじゃ、お師匠。」
 リュリュはそう言って廊下に出ると、通りかかった侍女にキャシーから言われたものを持ってくるように言いつけ、部屋に戻ってきた。部屋に戻ってきたリュリュの目に飛び込んできたのは、机にしがみつこうとするユリウスと、それを引き剥がそうとしているキャシーの姿だった。
「ほら、少しベッドに横になってってば。休まないといざというときに体が動かないわよ。ほら・・・もうっ!」
「いーやーだー。今考えないと、全部手遅れになっちゃうかもしれないんだ。」
「こういう風になるからアリスはあなたに考えるなって言ったんでしょうが。」
「そうじゃぞ。まったく貴様という男は、逆にアリスに心配されてどうする。この大馬鹿者が。」
「アリスが?君たちアリスに会ってきたのか?」
「ああ。会ってきたぞ。囚人のメディカルチェックは医療部隊の職務じゃからな。大お師匠さまに頼み込んで当番の者とお師匠を交代してもらって会ってきたのじゃ。牢の中だというのに、アリスはお前の心配ばかりしておったわ。」
「アリスは・・・元気にしていたか?」
「元気も元気。ユリウスよりもよっぽど落ち着いていたわよ。昨日の夜もしっかり眠ったみたいだし、肌ツヤもあなたよりよっぽどよかったわ。」
「そうか・・・よかった。」
 そう言ってほっとため息をついたユリウスからは机にしがみつこうとする意思は感じられなかった。
「リュリュ、悪いけど肩を貸して。」
「わかりましたのじゃ。」
 キャシーとリュリュがグッタリとしたユリウスをベッドへ運んだところで、ドアがノックされ侍女がお湯とタオルを持って入ってきた。キャシーはタオルをお湯に浸すと、固く絞ってユリウスの目の上に載せ、目の周りをマッサージし始めた。
「ユリウス、あなたが今するべきは犯人探しじゃないわ。アリスの無罪を信じて文官たちをまとめて今まで通り仕事をすることよ。」「・・・。」
「アリスのことは心配するな。リュリュとて、アリスの無実を信じておるからな。快適に過ごせるように取り急ぎ牢の中を改装させておる。」
「つまり、リュリュにも彼女を牢から出すことはできないってことか・・・。」
「まあのう・・・今回の事件は完全に兄上の領分での出来事じゃから、兄様の裁量をまたぬことにはリュリュにも勝手はできぬのじゃ。逆に兄様がアリスを信じる。アリスが犯人ではないと判断すれば、なんの問題もないことなのじゃ。」
「アレクシス皇子の領分ということは、死んだガミディというのもアレクシス皇子の配下の人間なのか。」
 ユリウスのつぶやきを聞いて、リュリュとキャシーは顔を見合わせた。
「ユリウス。ひょっとしてあなた、誰が亡くなったのかわかっていない?」
「だから、ガミディ宰相だろ?」
「・・・まあ、奴はその名をあまり名乗らんかったからな。・・・ユリウス、昨日殺されたのは、カズンじゃ。」
 リュリュの口から出た予想外の人物の名前を聞いて、ユリウスが思わず体を起こす。
「カズンが・・・!?」
 確かにカズンが殺されたということになれば、普段から険悪そうに見えたアリスが疑われるのも道理だし、何かの理由でアリスがカズンの部屋から出てきたところを目撃されていたとすれば高速もされるだろう。だが。
「アリスとカズンが険悪そうに見えたのは、アレは違うのに。あれはどちらかと言えば僕と姉さんのような。そういう親しみの裏返しだった。彼女がカズンを殺すわけない。」
「そんなことは貴様に言われるまでもなくわかっておるわ。じゃが、状況はアリスにとって有利とは言えぬ。くれぐれも軽挙妄動は慎むようにな。リュリュとお師匠はそのことを言いに来たのじゃ。・・・間違っても、机の上にあるような計画で牢破りをしようなどとは思うでないぞ。」
 リュリュはそう言ってチラリと机の上の紙束を見やった。
「ああ・・・わかった。」
「それと少し休め。リュリュのような未熟者でもわかるくらいに今の貴様の状態はひどい。そんなことでは、逆にアリスの足を引っ張るようなことをしかねぬ。」
「・・・そうだな。うん。少し眠ることにするよ。君たちの言うとおり、今考えてもいい案は浮かびそうに・・・な・・い。」
 ユリウスは喋りながら倒れこむようにして体を横たえると言い終わるか終わらないかのあたりで寝息を立て始めた。