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愛道局

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取愛センター



 三月は年度末のせいか仕事が集中していた。ボランティアはお休み中になってしまった。山本のボランティア預金は少ししか貯まっていない。滞納になっている愛道料金支払いに充てるには、週1回、この先ずーっ続けることが必要になるだろうと思うといやになってくる。
 四月半ばになって、また督促状が来た、と思ってよく見たら出頭せよという案内だった。うわさに聞いていた別名召集令状だった。ボランティアでも支払いが難しい者に、強制労働で支払ってもらおうというものである。日時、場所が記載されてあった。逃げる口実を与えないように、日曜日にあたっている。まあ、考えようによってはボランティアより手っ取り早く滞納から逃れることができるともいえる。

 山本が少し早めに愛道局取愛センターに入っていった時、もうすでに数人がソファーに座って新聞をみたり、ボソボソと話している組もいた。それぞれ社会的には第一線で活躍中のものはいなさそうだった。受付で番号札をもらい空いている所に座った。隅の方に大型のテレビが置いてあり、NHKのニュースをやっている。なんとなくそれを見ている時、隣に座っていた男が「ここはストレス解消にいいねえ、ご飯もいただけるし」と独り言かのように言った。山本が顔を向けると、前歯の一本が抜けている知性の感じられない痩せた貧相な顔があった。髪はなすがままという感じ、服装は上下ジャージだった。その顔が自分の方を向いているので、山本は、男が自分に話しかけてきたのだなと気づいた。山本があいまいに頷くと、「初めてかい」と、少し優越感を持った顔で聞いてきた。
 ここに来ることはそんなに威張れるものではないだろうにと思っていると、山本の気持ちを察したように、男はその顔からは想像出来ないことを言う。
「愛は家庭で始まる、自分自身の家庭に愛が持てなければ、外の人びとを愛することはできないと誰かが言ってる。愛は無限だ。人にあげても減らない」


 山本は何か宗教の勧誘だろうかと、男の顔を見る。
「この世には愛がある、その愛を探し求めよ、というのはおかしいのではないかと思います。愛とは、わたしたち自身の心の中にあるものです。心に愛のある人が、愛を生み出すことができるのです」
 前歯の欠けた口元から出てくる言葉は、山本の予想を超えていた。しかし、どうみてもそぐわない。よくみていると、頭の引き出しの中から一つずつ取りだして並べているという感じだ。
「愛の反対は憎しみではなく、無関心である」
 男がそう言い終わった時、係員が出てきて話し始めた。
「それでは、ただ今からガイダンスをビデオで見ていただきますが、念のため、この取愛のしくみを簡単にご説明させて頂きます。取愛は全国の人口密度の多い街の各所に設置された機器により集められますが、それでは足りないので直に機器を頭につけて集められます。これは非常に濃度の高い愛が集められます。ただしこのまま使えませんので、このあと浄愛場で不純物を取り除く作業があります。この機器は全く無害ですのでご心配はありません。なお、係員の指示があるまでこれは外さないで下さい。では、ガイダンスにうつります。」
 部屋の照明が少し落とされ、係員がテレビの下に置いてあったビデオ機器を操作した。女性の声で説明が始まった。内容は、頭に機器を組み込んだヘルメットのような物を被り、感情の発露を過剰に行うというものであった。それは精神的に不安のある人が治ったりしたが、また何か後遺症がおこるのではないかという不安の話がついてまわっているが、今のところ無害らしい。

作品名:愛道局 作家名:伊達梁川