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愛道局

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「それでは係員の指示に従って各部屋に入ってください。」とガイダンスが終わった。
 最初の部屋で緊張して順番を待つ間に、ジュースのような飲物を渡された。気分をリラックスさせる成分が入っているが無害であると、女性の係員は言った。やがて頭に機器がとりつけられたが、思いのほか軽く、まさにヘルメット感覚である。終了まで被ったままになるという説明だった。
 二番目の部屋は待合室のようにソファーがいくつかならんでいて、大画面テレビがあった。十人ほど集まったところでビデオが流された。こんなもんで務めが果たせるのなら毎日きてもいいじゃないかと思いながら見始めた。【日常の悲劇】というタイトルが現れた。
何だ、朝から悲劇の話かと思いながら見始めた。
 男は家具と家具の細い隙間が埃でいっぱいなのを見つけた。掃除機を出して吸い取ろうとするが、T字型の吸い込み口では入らない。男は探す。「あれ、ヒゲのついたタコの口が無いなあ」押入から次々とモノを出して見るが見つからない。いつの間にか部屋はぐちゃぐちゃになってしまった。そしておきまりのように不安定になったモノの一番上から箱が落ちてきて男の頭にぶつかった。
 
 少し笑いがおきた)

 男はホームセンターで掃除機のアダプターを選んでいる。電機メーカーの名前がついているが、わからないので【汎用】と書かれたものを選んで買った。男はさっそく取付ようとしたがほんの少し入っただけですぐ外れてしまう。「少し削るか」工具箱からヤスリを出して少しずつ削り始めた。
 男は邪魔に思えた掃除機の長い真っ直ぐな部分を取り外したのが、結果的に悲劇を生むことになった。やっとおさまった【毛の生えたタコの口】を使って隙間の埃はとれた。男は満足感に浸って周りを見る。ついでにと部屋の掃除を始める。左右に思い切り動かしたとたん、【毛の生えたタコの口】が外れた。その反動で男の手が滑り、ゴム蛇腹の弾力あるホースがはねかえって吸込み口が男の顔に向かった。ぶしゅっと音をたてて口にへばりついた。掃除機はぶしゅーと音をたてている。

(周りで笑いが大きくなった)

 男は力ずくでホースをひきはなそうとしたが、引っぱるといっしょに自分の唇が伸びる。

(大笑い)

 男は必死に【切】ボタンを押そうとする。手元スイッチがアップになって、男が【強】のボタンを押してしまった。

(笑いがさらに大きくなった)


「あわわあ、ぶふ」
 男の指が慌ててボタンを押す。しかし、それはたたみ・ジュータンの切り替えボタンだった。男の目から涙があふれてきた。

(大笑い)

 男は、あわわわと言いながら手元のボタンの文字を見ようとするが、涙でにじんで見えない。ぶおおおおと依然掃除機は吸い込むのを止めない。男は口を吸われたまま、掃除機にもたれかかる。それはまるで愛おしい人を抱きかかえるような姿になった。

(爆笑)

 男は指を動かし続け、やっと【切】スイッチを押した。しゅううっと音が小さくなり、やがて静かになった。男の腫れ上がった唇がアップになった。

(あああという声、笑いが止む)

 男は放心したように身を投げ出し、掃除機を見ている。やがて男の脳内では掃除機がグラマラスな女体に見えてくる。吸込み口は官能的な唇に見える。男の頭の上にハートのマークがつく。


 はっははは、

 回りが大笑いするのにつられ、声をたてて笑う。すこしずつそれはエスカレートして、腹筋がいたくなるほどだった。
 目尻に涙がうっすら滲んでいる感じがあった。涙がでるほど笑ったのは何年振りだろうかと思った。皆力が抜けたようにソファーに座っている。
「こういうのをイチレンタクショウというんだ。ん? わかる?」
 誰かが言った。誰も返事しないので、その男は説明を始めた「あのね、タクショウのショウが笑いのショウなの」
「それは高級すぎてわからねえなあ」という別の声に皆が笑った。
「それでは、次に参ります」と、女性係員の声がした。
「観光バスガイドみたいだなあ」と、また誰かが言って、皆が大笑いする。山本はその係員の顔を見たが、全然笑ってはいなかった。それは、次の部屋をかすかに予感をさせ、笑いの顔を少し緊張させた。

 次の部屋に入る前に、係員が「それではこの中からお好きなお面を選んで被ってください」と言った。祭りの縁日で昔から売っているような、何とかライダーの面や古くからある般若、おかめ、ひょっとこ、天狗の面などがあった。冗談でやっているのだろうかと係員の顔をみたが、笑顔でも怒り顔でもない。山本は少し迷った末に天狗の面を被った。
 天狗の山本が部屋に入ると、「少しお待ちください」と言って係員が部屋を出て行った。

作品名:愛道局 作家名:伊達梁川