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愛道局

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 どこかでピンポーンという音がなっているなあ。妻が帰ってきたのかなと、ぼーっと考えて、少しずつ頭が覚醒して行く。自分がソファーの上だということと、ボランティアの家の中だということが解った。山本は立ち上がり、玄関に向かった。扉が開けられ、車椅子が半分ほど入ってきたところだった。
「あ、急いで、急いで」
 林おばさんが何のために急いでいるのか解らず、山本はあいまいに車椅子に手をそえた。
「はい、立ってください」とおばさんが、老婆を立たせるのを支えて手伝う。
「私がささえていますから、山本さんは、ゆっくり車椅子を引いて外に出しておいてください。はい、足を前にだしてー」
 山本は、(足を前にだしてー)につられて自分も足を出して、それは老婆に言った言葉だなあと直ぐ気がつき、ぎこちなく車椅子を後ろに引いた。おばさんは無理矢理という感じで抱きかかえ車椅子から降ろした。(足を前にだしてー)はいらなかったんじゃないかなと思いながら、車椅子を外廊下の壁際に置く。
「え、なに、でちゃったあ」おばさんの声が聞こえる。山本が中に入ると老婆とおばさんが部屋の真ん中で固まっていた。おばさんは山本を見て、何か言おうとしたが、うまく考えがまとまらない顔になった。老婆は下を向いている。
「じゃあ、ゆっくり歩いて」と、急いで入ってきたのに、そろそろとベッドのほうに向かった。やがてぷーんと匂いがしてきた。


「あ、山本さん、ちょっと外に出ていて」とおばさんが言う。山本はことの事態を悟り、外に出た。少しずつ日照時間が長くなっているが、もう西にだいぶ傾いている。山本は猫のようにその西日にあたるように手すりに寄りかかった。
 夕方に畑さんが帰ってきて、ヘルヘルパーの仕事から解放された。林おばさんには一方的に色々なことを聞かされたが、夫と息子がいるということぐらいしか頭に残っていない。
老婆の介護手伝いではなく、実際は林おばさんの話相手というボランティアではないかと思った。(それにしてもよくしゃべる」と山本は、おばさんと別れてから思い出して苦笑いをしてしまった。
 部屋に帰って、山本は心の中で「ただいまー」と妻に言った。妻は「お帰りー」とは言わない。写真を見ると少しすねた顔にも見える。 何か怒らせたかなと、つい考えてしまう。
もう一度妻の顔を見る。「おみやげはー」と言っているような気がした。「そんなのないよ。ヘルヘルパーだもんね」というと、「ちぇっ」という舌打ちが聞こえた気がした。



作品名:愛道局 作家名:伊達梁川