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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 外伝3 前日譚:カズン

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「無理はしなくていいんですよ。今は一緒に仕事をする仲間なんですから。私にもお仕事させてくださいね。」
 ほぼルーファスと同じ量の荷物を持ちながら、自分よりも悠々とした表情で歩くアリスの様子にルーファスは驚いた。
「すごいバランス感覚ですね。」
「まあ、私とクロエは出自が旅芸人ですからね。小さいころの訓練が役に立ってるってことでしょうか。」
「はぁ・・・旅芸人の。でも何故旅芸人の娘さんが皇子の護衛を?」
「旅の途中で熊に襲われたんです。その時に私たちをかばって両親も仲間も皆亡くなりました。」
 いつもの調子で言うアリスに、恐縮してルーファスが謝る。
「すみません・・・変なことを聞いて。」
「いえいえ。もう随分前のことですから。そこで陛下に拾われて、アレクの所に来たんですよ。」
「そうですか・・・随分辛い思いをされたんでしょうね。」
「いえ、陛下もアレクも良くしてくれましたから。むしろアレクのほうが辛い思いをしていたかもしれません。」
 そういいながらクスクスと悪戯っぽくアリス。
「なにしろ、わたしはスパルタでしたから。自分で着替えさせたり、朝晩の起こし方が雑だったり。食べ方が汚いアレクの顔をスープに押し付けたときはさすがに母に怒られましたけど。」
 アリスはさらにニコニコと笑いながら思い出を語るが、ルーファスは笑わずに立ち止まりむしろ悲しそうな表情を浮かべる。
「・・・そんな芝居はもうやめにしませんか。」
「お芝居なんかじゃないですよ。」
「良くしてくれたのなら、何故あなた達はそんなに強くなったのです。強制されたのでしょう、強くあることを。苦しい鍛錬を、地獄のような毎日を。」
「いいえ、それは違いますよルーファスさん。」
 アリスも立ち止まり、ルーファスに向き直って口を開く。
「確かに訓練は厳しかったですが、私たちは、強制されたわけではないのです。私たちはアレクを守りたかった。陛下を、王妃様をこの国を守りたいと思いました。だから強くなったんです。」
「嘘です。僕らは知っています。アレクシス皇子の圧政を!あなた達姉妹もきっとその犠牲者・・・」
「それは、サイラス公の嘘です。」
「・・・何故それを。」
 突然アリスの口をついて出た、今の自分たちの雇い主の名前にルーファスは青くなってアリスに詰め寄った。
「私の独断です。悪いとは思いましたが二人が眠っているときに私の魔法で聞き出してアレクに伝えました。」
「・・・・・・」
「サイラスはあなた達を利用していたのです。アレクが居なくなれば他に男子がいない以上、帝位はアレクのはとこのサイラス公になることは確実。おそらくサイラスの狙いはそこでしょう。」
「・・・・・・。」
「ですがそれを許すわけにはいきません。近日私たちはサイラス公と戦います。そしてそれが終わればあなた方は開放します。雇い主が居なければあなた達にアレクを狙う理由はないでしょうから。いえ、本当の雇い主はいるようですが、そこはどうしようもないですからね。」
 外交問題になってしまいますから。と付け加えてアリスはコロコロと笑った。
「・・・嘘だ。アレクシスは圧政をしていて、サイラス様は民を開放するために・・・」
「嘘ではないです。・・・サイラスの言う圧政は街にありましたか?城内にありましたか?」
「嘘だ、嘘だ!」
「あなたが信じても信じなくてもあと二週間です。そうしたら二人は名前を変えて城下に残るかアストゥラビに・・・。」
 言いかけたアリスが何かに反応して、真剣な表情で目を閉じて集中を始める。
「どうしたんですか?」
「静かに・・・マズイですね。」
「何がですか?」
 地面に耳をつけて何かを聞くような素振りを見せるアリスにルーファスが尋ねる。
「サイラス公のほうが上手だったようですね。この街はあと二時間もすれば街は包囲されます。軍勢は3千と言ったところでしょうか。」
「は・・・?」
 地面から耳を離して立ち上がると、アリスはいつもの笑顔ではなく苦々しい表情でルーファスに告げた
「先手を取られました。・・・二週間後ではなく、あと二時間で戦争です。」