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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 外伝3 前日譚:カズン

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「敵方の戦力は3000。対するこちらの戦力は500。早馬を飛ばして領内の兵を集めるには少々時間が足りません。」
 アリスの情報を元に、軍議が開かれ、絶望的なまでの戦力差が将校の口から告げられる。
 その戦力差は6倍。
「そうか。だがまあ、楽勝だろう。問題は非戦闘員の避難だが・・・」
「ちょっと待て!何を言っているんだ?6倍だぞ6倍。お前たち頭がおかしいんじゃないのか。」
 6倍の戦力差をもって楽勝と言い切るアレクシスと、それに同意して頷く家臣たちの様子に机を叩いて大声でカズンが叫ぶ。
 と、いうよりそもそも
「それに何で俺達が軍議にでてるんだよ。おかしいだろうが、俺とルーファスはサイラス側の人間だぞ。」
「・・・?」
 カズンに詰め寄られてもカズンが何を言っているのかわからないといった風にアレクシスは首をかしげた。
「ああ・・・。すまない、忘れていた。」
 しばらく考えてからポンと手を叩いて本当に今思い出したかのようにアレクシスが謝る。
「アンタたちね、今更戻って大歓迎が受けられるとでも信仰しているわけ?任務に失敗してひと月も敵にご飯を食べさせてもらってましたー。なんて奴、今更受け入れられるわけ無いでしょう。」
「う・・・。」
「それは・・・確かに。」
 クロエの言葉に、ルーファスとカズンは言い返せず、黙って俯いた。
「とはいえ、母さんが不在なのは痛いですね。」
「しかたないさ。父上からの呼び出しだ。エリザベスも応じないわけにはいかないからね。・・・まあ、父上がサイラスと通じているという可能性は捨てきれないが。」
 アリスの言葉に少し皮肉めいた笑いを浮かべながらアレクシスがつぶやく。
「エリザベスの分は僕が埋めよう。非戦闘員の避難誘導に50人。残りは正門にて私とクロエ、アリスを先頭に大鷲の陣を敷く。狙うはサイラスの首のみ。他には構うな。将を射れば馬は逃げ出す。」
「カズンさん、ルーファスさんは非戦闘員の避難誘導のほうをお願いします。」
「はぁ?」
「はぁ、じゃないわよ。教会の地下から避難壕に入れるから、街の人を誘導して頂戴って言ってるのよ。今日街を歩き回ったんだから場所はわかるでしょ。」
「何で俺達が。」
「アンタたちはサイラスから見たらもう裏切り者な訳。それでもノコノコ出て行くの?真っ先に弓を射かけられておしまいよ。」
「だからって・・・いいのか?街の人達を人質にすれば投降くらいできるんだぞ。」
 街の人間を任せると言われたカズンは動揺して、そんな事を口走る。しかし、アレクシスはそんな事を意にも介せず、いつもの穏やかな表情でカズンを見つめて言った。
「『非戦闘員に手を出さない。』二人はこのひと月きちんと約束を守ってくれた。それだけで信じるには十分だ。」
「く・・・。」
 信頼する。と言うアレクシスのまっすぐな言葉に、カズンは返す言葉が見つからなかった。
「カズン、やろうよ。アレクシスはサイラスの言うような人物じゃなかった。それだけで十分だろ、僕達を騙してたサイラスこそが・・・。」
「わかってんだよ、そんな事は。・・・あーあ、甘い甘い。どいつもこいつも皆甘いぜ。」
 はぁっと、深くため息をついてカズンが顔を上げる。
「やってやるよ。この街の人間をきっちり守ってやろうじゃねえか。」
「・・・決まりだな。第4中隊とカズン、ルーファスで非戦闘員の避難誘導。残りの者は正門前に集合だ。開門は1時間後。」
 一呼吸置いてアレクシスが普段は出さないくらいの大きな声で軍議に出席していた全員に言った。
「我々は皇帝を打ち倒し祖国があるべき姿を取り戻すまでは負けるわけにはいかない!これはその前哨戦だ!我々の力をみせてやれ!そして、全員揃って勝利を祝おう。・・・解散!」
 アレクシスの言葉に出席者達は頷き、拳を突きあげて気炎をあげると急いで会議室を出て行った。


 一時間後、アレクシスの宣言通り城壁の正門の吊り橋が下ろされ、戦いが始まった。
 カズン達がいる教会の辺りは正門から大分離れているが、それでもカズンとルーファスの耳には大きな爆発音や、人の叫び声が聞こえてきていた。
 開いたのは正門のみだが、中央突破の布陣を敷いている以上、アレクシス達の抜けた後から街中に敵兵が入ってくるのは想定済みだ。それを想定しての火の粉払いのための避難誘導隊だ。
 だが、所詮は1個中隊。50人程度である。その50人に対してアレクシスを無視して突入してくる兵士がまさか500を超えるなどと誰が思うだろうか。
 戦力差10倍。
 一騎当千などと言う言葉があるが、実際一人で千人を相手にするなどということは不可能だ。
 その半分で有る五百人であったとしても普通の人間では相手にはできない。
 そしてそれが10人だったとしても不可能だ。
 いや、可能な人間は居るだろうが、それは所謂達人クラスの、この城であればアリスやクロエ、エリザベスくらいだろう。
 実際避難誘導隊はよく頑張っていたが隊の中にはちらほらとけが人も出ており、一人当たりの負担は時間を追うごとに目に見えて増えていった。
「撤退だ、隊長さん。」
 いつもの短剣よりも一回り長いショートソードで敵兵の攻撃をいなしながらカズンが誘導隊の隊長に声をかける。
「俺とルーファスがなんとかするからアンタたちは住民と怪我した連中を連れて引っ込んでてくれ。」
「だ、だが・・・。」
「だがじゃねえ。アレクシス皇子の言葉を忘れたか?『全員揃って勝利を祝おう』だろ。」
「・・・。」
「僕らなら大丈夫。多対一なら僕らの領分です。」
 二人の言葉に隊長は悔しそうに歯噛みして頷くと
「すまない。言葉に甘えさせてもらう。君たちも無理はしないよう。皇子は君たちも揃っての勝利を望んでいるはずだ。」
 そう言い残して体を翻すと、隊長は教会の中に姿を消した。
「だってよ、相棒。」
「甘いね、ここの人たちは。」
 敵兵ときりむすびながら、時折視線を交差させてカズンとルーファスが笑う。
「だけど・・・。」
「何か居心地がいいんだよな・・・。」
「そうだね、ここの居心地は最高だ。サイラスなんかにはもったいない。」
「ああ、誰かに奪われるなんてごめん蒙りたいな。」
「じゃあ。」
「そろそろ行くか。」

 一人で十人を相手にするのは不可能である。
 ただし、それは十人の相手と自分の条件、例えば武器が同じであった場合だ。
 例えば爪楊枝を持った十人と真剣を持った一人が戦えばそれは大抵の場合真剣を持っている方が勝つ。
 道具、得物の差と言うのは大きい。
 そして、その得物のによって有利を得られる程度には、ルーファスの得意とするそれは威力も範囲も持っていた。
 戦輪。
 握って切ることも、投げて敵の死角から命中させることもできる武器だ。
 その戦輪をルーファスはまるでお手玉でもするかのように時には投げ、時には握りして8個も操っている。
 クロエの見破ったルーファスの筋肉の付き方はこの戦輪によってもたらされたものだ。
「悪いけど、ここを通すわけにはいかないんだ。引けば追わないけど、通ろうとするなら容赦はしないからね。」