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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 外伝3 前日譚:カズン

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「弱・・・。」
 倒れ伏したカズンとルーファスを見下ろして吐き捨てるようにクロエが言った。
「ひと月前も全く同じやりとりをした気がしますねえ。」
 ニコニコと笑いながら頬に手を当ててアリスが言う。
 蹴り飛ばされるとか、投げ飛ばされるとかそんなのまだ良いほうだと言う事を、カズンとルーファスはこのひと月で思い知らされていた。
 クロエの鉄扇で打たれるのは蹴られるよりも痛いし、
 アリスのリュートが物理的に飛んでくるのは、自分が投げ飛ばされるよりも恐ろしい。
「あんたたち、何で本気出さないわけ?」
 もはや毎日恒例ともなった襲撃の後はこれもまた恒例のティータイムだ。
 アレクシスの待つ東屋のテーブルに紅茶を並べながらクロエがカズン達に言った。
「何か隠してるでしょ、アンタ達。」
「さあ、何のことでしょうか。」
 とぼけたように言うルーファスに不愉快そうな視線を向けながらクロエが口を開く。
「アンタの筋肉の付き方は何かを投擲する戦士のタイプでしょう。それなのに、何でナイフを使っているのって聞いてるの。」
「・・・・・・。」
「それにカズン、あんたはどう考えたってインファイターじゃないでしょう。戦うための筋肉が一切ないもの。」
「・・・・・・。」
 クロエに指摘されて、カズンとルーファスは冷や汗をかいた。
「まあまあクロエ。いいじゃないの二人がやりたいようにすれば。ねえアレク。」
「ああ、アリスの言うとおりだ。二人とも約束を守ってくれているし、好きにしてくれればいい。」
 カップを口に運びながらアレクシスは薄く笑う。
「そうそう。4人に頼みたいことがあるんだ。街でちょっと買ってきてほしい物があってね。」
 そういってアレクシスは気の置けない友人達に頼みごとをするように4人を見回した。


「何であたしがアンタとなのよ。最悪の気分だわ。」
「お前、絶対ルーファスと一緒でもそれ言ってただろ。」
「当然。大体アンタ達と一緒に街に出るなんてこと自体が不本意なんだから。」
 クロエは鼻をならしながら不満をぶちまけるが、カズンはなれた物で、肩をすくめることもなく言い返す。
「じゃあ、俺とルーファスを残しておいてくれればよかったんだ。大好きなお姉ちゃんとお前が買い物してる間にアレクシスは俺達に殺されてジ・エンドだったぜ。」
「は。何を都合のいい妄想をしているんだか。お養母さんに手も足もでないであっという間に殲滅されておしまいよ。」
 クロエの言葉に『たしかにそのとおりだ』と思ってしまったカズンは何も言い返せなかった。
「ま、いいわ。さっさと買い物を済ませてかえりましょ。気楽な身分のアンタ達とちがってあたしとアリスには仕事があるんだから。」
 そう言って歩き出したクロエの足元に街の子ども達がまとわりついてきた。
「なー、なー、クロエねーちゃん。今日はおーじといっしょじゃねーの?」
「一緒じゃないわよ。・・・ちょっと、裾引っ張らないの。」
「何だ、クロエちゃんついにアレク様にふられたかー。これやるから元気出して新しい彼氏と仲良くなー。」
 子供とのやりとりを聞いていたらしい八百屋のオヤジが笑いながらクロエに声とリンゴを投げる。
「フラれてないわよ!もー、離しなさいって。」
 クロエはそう言いながら投げられた二個のリンゴを見事にキャッチして、裾につかまっていた子供を振り払う。
「なー、なー、誰あいつ。ねーちゃんの新しい男?」
「新しいも新しくないもない!ていうか冗談でもそんなこと言わないで!」
「だよなあ、ねーちゃん可愛くないもんな。」
「うがぁ!うるさい!さっさとどっか行きなさい!いかないとぶん殴るわよ!」
 そんなやりとりをしながら歩くこと30分。
 街の人々に声をかけられ続けるクロエをカズンは少し離れたところを歩きながら見ていた。

 アレクシスの使い物を受け取っての帰り道。
 クロエに声をかける人が途切れたのを見計らってカズンはクロエに話しかけた。
「顔が広いんだな。」
「まあね。アレクと一緒に歩いていればいやでも顔を知られちゃうし。」
 クロエはなんということもないという風に言ったが、カズンからすればそれは異常とも言えることだ。
「まてまて、アレクシスはそんなに頻繁に城下に来るのか?」
「ああ、週一くらいかしらね。あたしかアリスを連れてふらっと街を歩くのが彼の趣味だから。」
「はぁっ!?まともに供も付けないのか?」
「あたしたちが居て必要だと思う?」
「いや・・・まあ。よっぽどの使い手でなければ、アレクシスは殺せないな。」
「そういうこと。・・・アレクはね、自分の守らなきゃいけないものをちゃんと見ておきたいんだって。だからちょこちょこ城下に顔を見せるし、子供とも遊ぶし八百屋のおじさんからもらったリンゴをその場で食べたりもする。」
 そう言ってクロエは先ほど八百屋のおやじから受け取ったリンゴをかじって、もう一つをカズンに投げてよこす。
「王族としては規格外だな。」
 リンゴを受け取ったカズンは呆れ顔でつぶやく。
「だからこの街の人は皆アレクの事が好きなのよ。」
「お前含めてか?」
「ば・・・・・・。バカなんじゃないの?何言ってんのよ、あ、あたしはアレクのことなんて何とも。」
「子供にまでバレてるのに今更言い訳されてもな。まあ、肝心の皇子はまったく気づいていないみたいだけど。」
 チッと小さく舌打ちをしてクロエが口を開く。
「アンタ、余計なこと言ったら殺すからね。」
「どっちにしたって殺されるだろ。どういう気まぐれを起こしているんだか知らないが、アレクシスはいつか俺とルーファスを持て余す。その時も俺達はお前たちを殺せない。結局俺達はアレクシスの暇つぶしが終わるまでの命って訳だ。」
 そう言ってカズンは自嘲気味に笑う。
「まあ、その時は最後の抵抗でお前の気持ちをアレクシスに伝えてやるよ。」
「アレクはきっとそんなつもりは・・・」
「じゃあ、俺達はどうなる?」
「それは・・・わからないけど。」
 クロエはカズンの問いに答えられず、黙って城までの道を歩くしかなかった。



「これで・・・ぜ、全部ですか。」
「ええ。これで全部よ。・・・やっぱり半分持ちましょうか。」
 前が見えないほどの大荷物を持ったルーファスを気遣ってアリスが申し出るが、ルーファスはその申し出を断った。
「いえ、大丈夫ですよ、アリスさん。やっぱりこういう荷物持ちは男の仕事だと思いますし。」
「あらあら、さすがは男の子。クロエだったら、『むしろ全部持ちなさいよ』位言われるんだけど。」
「こう見えても力は結構ありますから。」
 ギリギリながらも笑顔を浮かべるルーファスの様子に、アリスはなんとなく意地悪がしたくなった。
「でも、そうやってご機嫌をとっても、お姉ちゃんはクロエとの交際は認めませんよ。」
「な・・・・・・何でそこでクロエさんがでてくるんですか。」
 必死に取り繕おうとするが、ルーファスの動揺は荷物に伝わりいくつかの荷物が崩れて落ちる。
「あ・・・。」
「はいはい。その位がルーファスさんのキャパシティですね。」
 ニコニコと笑った表情のまま慌てることもなく、アリスは崩れ落ちた荷物をすべてキャッチする。