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柵の向こうの彼女

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僕の日常


 次の日の朝、ぬるま湯のような夜が過ぎて、僕は布団をはいで起きる。手早く制服に着替えて降りる。花瓶やら、粉々になった灰皿などを踏まないようにしながら、野菜やら肉やらが散乱したキッチンを踏み越え、冷蔵庫の中にある牛乳と、パンを取り出し、何とか残っていたオーブンでそれを焼き食す。見慣れた朝の光景だ。
 食べ終わった後、僕は玄関の鍵を閉めて家を出た。
 学校に着くと、まだ早い時間だったので、誰も来ていない。僕は相変わらず窓際の一番後ろに座って、ぼんやりと、かばんの中から小説を取り出して読み始める。今日は服毒自殺で死んだやつの、罪人が救われそうで救われない話だ。この神さまも大概趣味が悪いなあ、とそんな事を思っていると、ちらほらとクラスメイトが入ってきた。おはようの挨拶を軽く交わしていく。そうして、僕は本をしまい、友達と会話を始める。昨日のテレビはどうだったかとか、最近聞いてる音楽であるだとかの話をふってくる。僕は、見てもいないテレビと、聞いてもいない音楽の話を笑いながら相槌を打つ。言葉は二つで事足りる。
「うん、そうだよね。」「おもしろかったよね。」その二つを臨機応変に使っていけば、大抵はうまくいく。あとは、顔に笑顔を浮かべていればいい。
 そうこうするうちに、先生が入ってきた。そこで話は途切れて、友達は席に着く。僕もそれにならって先生のほうを向いた。
 適当に授業を聞き流しながらいると、あっという間に昼休みとなる。僕は適当に友達と弁当を囲み、一緒に食べる。朝した話とさして変わらぬ話を、さも楽しそうに相槌を打ちながら聞く。そして適当に笑う。そんなことをしているうちに、僕は購買で買ったパンを食べ終わり、友達に別れを告げて、読み終わった本を返すために、図書室へと向かった。
 昼休みの喧騒を抜けて、図書室の自動ドアを抜けると、不意に涼しい風が流れてきた。学校でクーラー完備はここだけなので、それを狙って涼みにきた有象無象のやからが本を読んだり、受験勉強をしたり、寝こけていたりと、様々なことをしている。本来の使用用途は、最初の一つだけだというのに。
 そんな中、僕は図書室の返却カウンターに向かい、例の服毒自殺の人の本を返す。カウンターに座っていたのは三つ編みに眼鏡の子だった。上履きの先を見ると黄色をしているところから、おそらくは一年生だろう。なんとも生真面目に、バーコードを読み取り、手早く返却に関する諸作業をこなしていく。最近、良くこの子にあたるな、とぼんやりしているところに、「ありがとうございました」の声を聞き、僕は「どうも」といって、本の海へと入っていった。
 うちの図書「館」は何でも高校の中では一、二を争うほど蔵書量が多いらしく、ここで探せば大抵の本は見つかる。本読みの人間としては全く持ってありがたい。僕はめぼしい本を抜き出して、また、カウンターへと向かう。眼鏡の彼女は僕から本を受け取ると、バーコードを手際よく読み取り、僕に本を渡してくれた。「どうぞ」と言われたので、僕は、「どうも」と返して、本を持って図書館の自動ドアを抜けた。
 なんとも言えない夏の香りが鼻についた。
 


 退屈で怠惰な授業も終わり、放課後となる。友達は部活やら家やらデートやらと、三々五々に散っていく。僕もまた、友達と別れ本を持って、屋上へと続く階段を上る。今日の本は、奥さんを電車から突き落とした小説の神さまの、床屋が客の首を掻っ切る話だ。なぜか一階にある二年の教室から一歩一歩階段を踏みしめて、上っていく。踊り場の外の日はまだ高く、その暑さもまたピークを過ぎたとはいえ、持続中だ。足を動かすたびに、どうしようもなく、額から汗が垂れる。目に入ったそれは、大層、僕の視界をふさいでくれる。これだから、夏は嫌だと思う。
 やっとこさ、屋上の扉に手をかける。少し息が上がっている。どうやら運動不足らしい。文学少年を気取るのもいいが、少しばかり運動をしたほうがいいかもしれない。そう思いながら扉を押す。隙間から屋上の強い風が流れてくる。汗をかいた肌にはとても気持ちよく感じられて、あがった息もどこかに吹き飛ばしてくれる。扉を開け放つ。一気に視界が広がる。かんかんに晴れた空と、だんだんと西日になってゆく太陽と、白い建物と黒い人ごみが見える。そして、
「あ、先輩。」
その手前に、彼女はいた。
 

作品名:柵の向こうの彼女 作家名:katariya