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203号室 尾路山誠二『アインシュタイン・ハイツ』

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AM11:00



 俺は遅い朝食を取って吉田屋を後にした。
 伊田君は俺が飯を食っている間、ずっと外で俺を監視していたようだ。俺は尾行マニュアルを読んでいないから詳しくはわからないのだが、外から監視していた彼の判断は正しいんじゃないだろうか。店の表はガラス張りだし、外からでも十分に監視できる。まさか依頼主も食い処で頼んでメニューまで知りたいわけじゃないだろう。
 ゲップと一緒に二酸化炭素とほんの小さな幸せを世界に吐き出しながら、行動を再開する。
「次はどこかなー、っと」
 メモを広げる。次の目的地は、商店街の中ほどまでいったところにあるゲーセンだった。
 その建物には歩くこと数十分で辿り着き、扉を開くとけたたましい音が氾濫して溢れ出てきた。しばらくパチンコへ言ってなかったせいか、思わず身を引いてしまうほどに鼓膜がビクンビクン跳ね回った。うるせー!
 さてそれで、調査対象はここで二階へ上がりフロア奥のレースゲームをやっていたらしい。ということで、二階へ上がることにする。しかしレースゲームかぁ、やっぱり男の子っていうのは車に憧れるもんなんだな。俺はこれっぽちも興味ないけど。
 階段を上りきったところで、辺りを見回していると、近くのベンチ座っていた人影が立ち上がったことに気がついた。こちらに近付きながら手を振ってくる。
「尾路山さーん!」
「あんれ、にゃん子さんじゃん」
 小走りで寄ってきたのは、会社のお茶汲み係だった。伊田君の片思いの彼女である。
「どうしたの、にゃん子さん。今日休みでも取ったの?」
「違いますよー。仕事ですよ、これでも。メモしっかり読みました?」
「ん、メモ?」
 メモ帳をポケットから取り出して、この時間帯の行動を確認してみる。
「ああ、なるほどね」そこには『友人と偶然出会う』と書かれていた。にゃん子さんが代役というわけだ。
「そういうことなんですよ。それにしても尾路山さんの私服初めて見ました。何だかロックシンガーっぽいですね」
「つまるところ、俺には社会人の風格がないってことだな」DJやら探偵やらロックシンガーやら……良いのかやら悪いのやら……。
「そんなことないですけよ」と向日葵のような笑顔を見せた後、不意に視線を辺りに振りまいた。「ところで、伊田さんはちゃんと尾行しているんでしょうか」
「あーうん、大丈夫だよ。上手い具合に隠れている。まぁ問題があるとすれば」と言いかけたところで、にゃん子さんの視線が一箇所で止まった。
 見ると、“ソレ”が見え隠れしているところに視線が行っているようだ。無用心にも伊田君はかなり近い位置に移動していた。おそらく愛しのにゃん子さんがいるからだろう。しっかりしてくれよ、伊田君……。
「ほら、まぁアレのせいで早々に気づいたんだけどね。まぁまだ大丈夫でしょ」
 言うと、にゃん子さんはふっと視線を切って、
「アレ、ですか? 何のことですか?」
「いや、ほら」と“ソレ”に指を差してみるが、にゃん子さんは首を傾げた。
「私は見ていません」
「えっ……何だいその言い回し」“ソレ”を見つけたけど、見てみぬ振りをしているとでも言いたげじゃないか。
「私は見ていません」
「……………えっと?」
「私には見えません」
「……にゃん子さんってさ」
「はい?」
「伊田君のこと嫌いでしょう」
 訊くと、にゃん子さんはニコリと笑って言った。「そんなことありませんよ」
 ほら行きましょう尾路山さん、と腕を引っ張られたので戸惑い気味に着いて行く。にゃん子さんはいい子なんだけど、たまに見せる背後の悪意というか瘴気というかが怖い。大体その黒い何かは、伊田君が近くにいる時や彼が話題になっているときだったりする。理由は知らない。
 いやぁ……ご愁傷様、伊田君。
 こっそりと背後の伊田君に心の中で合唱しておいた。