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天国か地獄か

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気がつくとソファの上だった。テーブルには食べたあとの残骸とビールの空缶が数個見える。明菜は同じソファに横になって眠っていた。窓から見えるのは緑、緑、緑。外が明るくなっていて、朝だとわかった。
「うーん、何時?」
明菜も目が覚めたようだ。
「8時ちょっと前」
「あ、バイトに行かなきゃ」
明菜が慌てて起き上がった。しかし、またソファに横になる。
「もう、あんな仕事行くのイヤになった」
明菜のしているアルバイトは、居酒屋の店員である。時々嫌な客がいて、ストレスがたまると言っていた。オレも同じ居酒屋の厨房で働いている。正社員ではない。生きがいをもってやる仕事でもないと思うが、じゃあ、何が得意だといわれると困る。
「ね、持ち主が現れるまでここに居続けようか」
「えーっ、あとでかなりのお金請求されるよ」
そう言ってみたものの、明菜の言うことは魅力的なことに思えた。誰かが近づいたら逃げるとう手もある。もう、決心したようなものだった。
「じゃあ、もう少し探検してみよう」

テレビのある部屋の隅に取っ手が見つかり引いてみると、地下室の梯子が見つかった。オレは恐る恐る下に降り始めてすぐに電灯の紐を見つけ引いた。地下室が控え目に明るくなった。ワイン貯蔵室? 木の箱に入ったワイン、チーズ、罐詰、米の袋。まるで籠城用の部屋のように多くの品物があった。


テレビもある。インターネットも楽しめる。心配した衣服や下着も、なぜか女性用まで豊富にあった。抱き合いたいと思えばいつでも出来る。ベッドルームにはミステリーを中心にした本棚もあった。数日贅沢で怠惰な生活を続けながら過ごしても、持ち主が現れることも無かった。天涯孤独で人嫌いの持ち主が事故か何かで亡くなった可能性が高いと思った。
「ここ、天国じゃない」
明菜はすっかりここが気に入ってしまったようだ。もともと独占欲の強い明菜だ。オレが他の女性に興味を持ったり、浮気の心配のないこの生活は願ってもないことなのだろう。
携帯も通じないし、ここの持ち主が電話嫌いなのだろうか。殆どそろっている中で電話だけが無かった。

         *           *          *

明らかに明菜は太ってきている。そしてオレもだ。ここの生活で足りないものが分かった。スポーツができない。食べ物は豊富だ、仕事でのストレスも無いし、太らない筈が無い。腕立て伏せとかヨガに似たようなこともやってみたが続かなかった。じゃあ外に出て山登りがいい筈だと思って丸太の間に顔を入れて驚いた。ギリギリなんとか出ても肩から下の部分が通り抜けられなかった。
「明菜! ちょっと来て!」
やってきた明菜も丸太の隙間から出られなかった。オレよりも肥満が進んでいるからだろう。オレたちは顔を見合わせ、お互いの泣き出しそうな顔を見ることになった。

         *           *          *

テレビは一日中点いている。明菜はぼーっとその画面を見て、独り言を言っている。一縷の望みであるノコギリを探し出して丸太を切るということも叶わなかった。日曜大工の道具は何も無かったのだ。

誰も訪ねてこない。オレたちは、すべてのことをやるのに根気が無くなっている。やせる努力もしなくなった。
オレはインターネットのゲームの中で山野を駆け回り、町で人と会話をしている。ネットの中でだけ生きているようなものだった。

作品名:天国か地獄か 作家名:伊達梁川