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天国か地獄か

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天国か地獄か



明菜と二人、低山だからと不用心に細い道に入ってしまったのが間違いだった。とりあえず低い所に降りて行けば民家があるだろうと思っていたが、行く手を遮られて少し上に登ったら完全に自分達の位置が分からなくなった。携帯も圏外でつながらない。次第にあたりは薄暗くなり始めている。

「野宿できる?」
そう聞くと明菜は不安そうな顔で首を横に振った。夏だから薄着である。リュックにはレジャーシートと少しのお菓子、長袖のシャツは入っているが、夜間どれだけ気温が下がるかわからない。

細い道はかすかに下に向かっているが、別の山に向かっている気がする。耳を澄まして車の音が聞こえないかと思ってみても聞こえなかった。そのかわり沢の音が聞こえた。非常時に水は貴重だろうと水音のするほうに向かった。

カーブ道を曲がって視界が開け、建物が見えた。
「あ、何かある」
無言で歩いていた明菜が声を出した。オレも少しほっとしてその建物を見る。小屋というには大きく、誰かの別荘かもしれないと思った。別荘にしては、車の入ってこられない場所に見えた。
「行ってみよう」
オレがそう言った時は、もう明菜は歩き出していた。かなりだるそうに歩いていたのが嘘のように明菜の歩き方は元気そうだった。

ログハウスなのだろうが、奇妙な作りだった。一回りしてみても入口の扉が無い。丸太と丸太の間から覗いてみると、中には普通の部屋とその扉が見えた。丸太は城の外濠のような役割をしているのかもしれないと思った。丸太のどこか一部が外れて中に入ることが出来るのかなと思い全部掴んで動かそうとしたが動く箇所は無い。もうかなり薄暗くなっているので、その隙間から頭を入れてみた。入ったので、体もねじ入れた。明菜は小さいので苦労せずに入れた。

ここが玄関なのであろう箇所に押しボタンがを見つけ押してみた。電灯が点いてオレたちは「おう!」と同時に声をあげた。
ドアノブを回す。カギは掛かっていなかった。玄関に入ると自動的に灯りが点いて、招待された客のように中に入った。入ってすぐ廊下になっていて右手にテーブルが置かれた台所が見えた。左にドアが二つ見える。空腹もあってすぐに台所に入った。

生活に必要なものはすべて揃っているようだ。明菜が冷蔵庫を開けて「すごい!」と声をあげた。オレも興味をもって覗き込んだ。かなり大きめの冷蔵庫の中には肉から野菜、ビールまで入っている。そこで、明菜と顔を見合わせる。
「誰かいる?」
盛り上がった気分が一気に冷めた。二つ見えた部屋のどこかに住人が寝ている可能性は大だった。オレたちは闖入者ということになる。

もう外は暗くなっている。事情を話して泊めてもらおうと二人で廊下に出て、手前にある部屋のドアをノックした。
コツコツと固い音が響いた。しかし中からは何も音がしなかった。さらにもう一度ノックをしてみる。
やはり反応が無いのでそっと開けて見た。暗い。オレが一歩中に入るとパッと部屋の灯りが点いた。ちょっとびっくりしたが、中にはベッドがあり、デスクがあった。デスクにはパソコンが置いてある。作家の別荘なのだろうか。当然もう一つの部屋が気になる。


二つ目の部屋でも同じようにノックへの反応は無かった。つい最近までここに誰かが生活していて何か急な用事ができて自宅に戻ったのかもしれないと思った。中に入ってみると大きなテレビが目に付いた。大きなソファがあり、その前にテーブル。隅には小さな冷蔵庫もある。その小さな冷蔵庫の中は思った通り、ワインを主とする飲み物が入っていた。
「誰もいないようだ。今夜はここに泊めてもらおう」
「そうしよう、何だかウキウキしてきたわ」
明菜はちょっと前の心細そうな表情とは別人のように見える。
「ビール貰おうかな」
オレは冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「何かおつまみ持ってくるね」
「あ、グラスも持ってきて」
「オーケイ」
明菜が走るように出ていった。オレはソファに座りリモコンでテレビの電源を入れた。ケーブルテレビのようだった。だから山間のこんな場所でもアンテナ関係なくクリアな画像が映し出されている。かなり工事費はかかったのだろうとオレは未知の持ち主の経済力を羨ましいと思った。

「すごいよ、ここ。地下収納庫があってね。食糧がいっぱいだよ」
明菜がトレーに入れて持ってきたものは、冷凍食品を電子レンジで温めたものが主であったが、野宿かとも思えた数時間まえと比べればまさに天国と地獄の差があった。
「じゃあ、豪華な宿にめぐりあえたことに乾杯!」
「かんぱあい」
普段と変わらない日常が戻ってきた。それどころかかなり豪華な日常である。ここの持ち主がどんな人物かの心配はあったのだが、ほっとして疲れが出たのかビールを飲んだせいもあり、考えるのも面倒くさくなった。
  
作品名:天国か地獄か 作家名:伊達梁川