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Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

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 アルベルトが唐突に西の空へ視線を向けたのと、絡み付くような悪魔の気配を感じたのはほぼ同時だった。西の空を仰ぐと、突如黒い靄の塊が現れ、猛スピードで東へと飛んでいく。突然の出来事に浄化の術も間に合わず、悪魔は遠くへ飛んで行ってしまった。
「――何あれ」
「分からない。ただ、飛んで行ったというよりは何かに吸い寄せられているような感じだったが・・・」
「吸い寄せられる、ね。東に何かあるの?」
「どうだったかな。あっちにあるのは―――」
「人喰いの森だ」
 知らない男の声が割り込んできて、二人は振り返った。
そこに立っていたのは、ライトブラウンの髪の青年だった。いつの間に現れたのだろうか。悪魔に気を取られていたとはいえ全く気付かなかった。
「・・・人喰いの森?」
「立ち入った者は誰一人帰ってこないという魔の森だ。この辺りの人間は怖がって近付かない。最も森の近くまで畑が広がっているから限界があるがな。――まあ、そんなことはいい」
 青年はそう言ってリゼの方に視線を向けた。何かを確認しているような、そんな様子である。何のつもりなのか訝しんでいると、青年は思いがけない台詞を吐いた。
「――お前が“救世主”だな?」
 驚いた。というより、何故その呼称を知っているのかという疑問が真っ先に沸いた。アルヴィアでの噂は、まさかミガーにまで広まっているのだろうか。
「違うわ。私は救世主じゃない」
 思わず使い慣れた否定の言葉が口をついて出る。だが、自分でももっとましな言い方ができなかったのかと思うその台詞に、青年が納得するはずもない。
「お前の認識は聞いてない。お前が“救世主”と呼ばれるほどの能力の持ち主かどうか聞いている」
 そう言った青年の眼差しは確信に満ちた様子だった。どうやら誤魔化しは効きそうにない。だったら何よ、と返すと、青年は真剣な顔でこう告げた。
「治して欲しい人間がいる」



 人喰いの森とはコノラトの東に広がる森林地帯の一部分を指すらしい。その周囲は普通の森であるが、森は広く深く、『人喰いの森』の噂が立つようになってからはコノラトに住む人間はみな恐れて近付かなくなったそうだ。
「元々“禁忌の森”などと呼ばれていて立ち入る者は少なかったがな」
 青年――キーネス・ターナーは前を歩きながらそう説明した。
 突然現れたキーネスが依頼してきたのは、悪魔憑きを助けてほしいということだった。ミガーに悪魔祓い師はいないし、悪魔憑きを救う手段などないのだろう。表面上は焦った様子もなく落ち着いていたが、彼の目は真剣そのものだった。とはいえ、
「その立ち入る者はいないっていう森に何で悪魔憑きがいるのよ」
 服についた木の葉をはたき落しながらリゼは言った。悪魔憑きはどこにいるのか。そう聞いたら問答無用でこの“禁忌の森”に連れてこられたのだ。どう見ても、彼女は機嫌がいいとは言い難い様子だった。
「色々事情がある。話せば長くなるし、知らなくても悪魔祓いには影響しないことだ」
 細かい事情に踏み込まれたくない。そんな様子だったが、リゼはあまり納得していないようだった。何かいいたそうにしていたが、彼女が口を開く前に、遠くから低い音が聞こえてきた。
 森の奥から響いてきたのは地響きだった。身体の芯に響くような重い音。たくさんの生き物が群れをなして走っているような音だ。
「――まずいな。ひょっとしてあいつらか」
「あの音がなんなのか知っているのか?」
 アルベルトが尋ねると、キーネスは、一度だけ遭遇したことがあると言って上を見上げた。さらに周囲をぐるっと見回すと、近くの樹に手をついた。
「樹に登れ。地上は危険だ」
「どういうことよ」
「つべこべ言わずに登れ。潰されるぞ」
 よく分からなかったが、とにかく二人はキーネスの言う通りにした。幸い、周りは登るのに困らない大樹ばかりである。太い枝を足掛かりに全員が樹上へ登り終わったころ、樹々の間から地響きの主が姿を現した。
 それは猪の大群だった。地を揺らしながらまるで統率のとれた軍隊のように同じ方向へと駆けていく。少しの間地面が猪の群れで埋め尽くされた後、無数の足跡を残して群れは樹々の向こうへ消えていった。
「なんだったんだ今のは」
 樹から降り、アルベルトは猪の群れが消えた方角を見る。猪は普通あれほど大きな群れを作らないはずだし、一斉に何かを目指すかのような動きをしていたのも気になる。
「キーネス。あれが何か知っているのか?」
「以前森に入った時、あれに追いかけられた。どうやらこの森に入ってきた人間に襲い掛かるらしい。それ以上は分からん」
 キーネスに尋ねてもあっさりそう返されただけだった。結局、何かは分からない。仕方なく真相究明は置いておくことにして、三人は再び森の奥を目指した。
 しばらく進むと、突如地面が途切れ、すり鉢状の窪地が現れた。草木に覆われているせいで一見すると窪地であることが分かりにくく、うっかりしていると落ちてしまうだろう。ただ地面は軟らかい腐葉土で、落ちても大怪我をすることはなさそうだ。何気なく、窪地を見下ろしたアルベルトは、そこにあるものを見つけて、目を見はった。
 窪地の底に誰か倒れている。
 草をかき分けて窪地に降り近付いてみると、その人物がうつぶせに倒れているのが見えた。この窪みに落ちたのか、服と髪は土で汚れている。服装は少年の着るそれだったが、助け起こしてみると少年ではなく少女だった。
「アルベルト、悪魔でもいたの? ――誰、その子」
 遅れて窪地へ降りてきたリゼが少女の姿を見てそう言った。街道も通じていない、人里離れた森の中に少女が一人でいるなんて普通ならただ事ではない。しかし、
「分からない。でもおそらくキーネスが探していた子だろう」
「どういうこと?」
「この子、悪魔憑きだ」
 そう言うと、リゼは少しばかり驚いたようだった。少女に視線を移した後、近付いて頭の上に手をかざす。
「・・・・・・本当ね。でも、気配が――」
 変だ、とリゼは首を傾げた。確かに悪魔憑きであることは間違いないのだが、どことなく違和感がある。普通の悪魔憑きと少し違うような――
 その時、草木をかき分ける音がした。
「おい、猪どもがこっちに戻ってきた。ここにいると危ない・・・・・・」
 滑り降りてきたキーネスは張り付いた木の葉を払いながら、アルベルトが抱えている少女を見た。一瞬、驚いたような顔をした後、
「・・・クロウ? 何故一人でこんなところに」
 キーネスは少女のことを知っているようだった。怪訝そうに気絶した少女を見ている。その様子を見ていたリゼが、
「あなたの言っていた治して欲しい奴ってのはこの子のこと?」
「・・・・・・ああ、まあな。それより、こいつは――」
 最後まで言う前に、大地を震わせる重い地響きが聞こえてきた。どうやら猪の群れが戻って来たらしい。
「後にしよう。とにかくここを離れるぞ。奴らに押し潰されるのはごめんだ」
 そう言ってキーネスは窪地を横切ると、手ごろな蔓を見つけてさっさと上に登っていく。アルベルトはリゼを先に行かせてから気を失った少女を背負うと、キーネスに続いて窪地を登った。