小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Savior 第一部 救世主と魔女Ⅲ

INDEX|15ページ/71ページ|

次のページ前のページ
 

 登り切ってから後ろを振り向くと、猪の群れは思ったよりも近くまで来ていた。群れの目の前には窪地があるが方向転換する様子はない。むしろさらに速度を増してこちらに走ってくる。まるで獲物を見つけた時の魔物のように。
 迫る猪の群れを避けるために、さらに樹上へと登る。少女を背負っていたのと今度は登りにくい樹だったため少し時間をかけて登り終えたころ、猪の群れは窪地を越えてすぐ近くまで来ていた。
 群れはそのまま走り去ることなく、急停止してアルベルト達が登った樹を取り囲んだ。
「ちっ、あいつらに目をつけられたか」
 猪の群れを見下ろしてキーネスが苦々しげに言う。猪達は樹上にアルベルト達がいることを分かっているらしく樹を取り囲んでどこうとしないので下に降りられそうにない。その上、猪が群がり、時折体当たりするせいで樹が大きく揺れ、ミシミシと悲鳴を上げている。下手をすれば、樹が倒れるのではないだろうか。
そんな中で真っ先に動いたのはリゼだった。彼女は地上の猪達を見回すと、突然樹から飛び降りたのである。そのまま一番低い枝に着地したかと思うと、密集する群れに向かって手をかざした。浮かび上がる魔法陣。そこから発生した突風が猪を蹴散らしてく。道が拓けたところですかさず氷の魔術で周囲の猪を牽制した。
「何してるの! さっさと行くわよ!」
 地上からリゼが呼び掛ける。そう言っている間にも猪達は動き出しているが、リゼに近付くたびに魔術で吹き飛ばされていた。
「・・・力任せなやり方だな」
「あれぐらいじゃまだ大人しい方だ。彼女なら群れを丸ごと氷漬けにしかねない」
 まあ猪にしてみれば氷漬けにされるのも吹き飛ばされるのも似たようなものかもしれないが。
 催促に応じて地上に降り立ったアルベルトとキーネスは、猪のいない一角を通り抜けて南へと走った。
 走る三人の後ろを猪達が追いかけていく。キーネスの言う通り、あの猪達は人間を追いかけてくるようだった。
 しかし、それも少しの間のことだった。走っているうちに、背後の足音が少しずつ遠ざかっていく。ちらと後ろを振り返ると猪達との距離が開いていくところだった。こちらが引き離しているのではなく、むこうが速度を落としているらしい。追いかけるのをやめたのだろうか。そう思っていると、草木をかき分ける大きな音がして、樹々の間から褐色の巨体が現れた。
それは巨大な猪だった。その巨体にも関わらず樹々の間を風のようにすり抜け、こちらにまっすぐ向かってくる。
「このままじゃ追いつかれるぞ!」
巨大な猪との距離は詰まる一方だ。また樹の上に登るにしても、あの大きさでは樹を倒されてしまうだろう。魔物ではないようだが、あの大きさとスピードでは立ち向かうのは無謀である。
 その時、前を走っていたリゼが立ち止まって振り返った。巨大猪に向かって手をかざし、魔術を唱える。
 パキ、と音を立てて大気中の水分が凍った。それは瞬く間に分厚い氷壁となり、猪の進路を塞ぐ。しかし、このままでは衝突するというのに、猪は速度を緩めようとしない。
「止まってる場合じゃない。走って」
「あれでも駄目か?」
「あの分じゃ突破されるわ。時間稼ぎくらいにはなるかもしれないけどね」
 言いながら、再び三人は走り出す。その背後で凄まじい音とともに猪が氷壁にぶつかった。氷の欠片が周囲に飛び散り、氷壁に大きなヒビが入る。猪が少し後退し、再び壁に体当たりした瞬間、氷壁は脆くも砕け散った。
 その短い間にもアルベルト達は走り続け、少しばかり距離を離していた。振り返ることなく走り続け、とにかく逃げる。そうしているうちに、ふいに樹々が途切れ、草花の揺れる草原に出た。薄暗い森の中とは違って日の光が眩しい。その草原をひたすら走り、しばらくしたところで足を止めた。
「・・・追ってこないわね」
 振り返っても猪達が追って来る様子はない。森の樹々は獣の往来を示すように大きく揺れていたが、猪達が森の外へ出てくる様子はなかった。
「とりあえず一安心、か」
「厄介ごとが一つ残ってるがな」
 キーネスは皮肉げに言うと、アルベルトの背に負われている少女に目を向けた。窪地へ落ちた時に頭を打ったのかまだ目を覚まさない。しかし、他に大きな怪我はなさそうだった。
「それで、この子は一体何者なんだ?」
 背から少女を指して、アルベルトが問う。それに対してキーネスは、
「名前はシリル・クロウ。知り合いが訳あって預かってた奴だ。おい、クロウ! 起きろ!」
 肩を揺さぶられて、少女――シリルはうっすらと目を開けた。
「うぅ・・・キーネス殿・・・?」
まだ意識がはっきりしていないのか、ぼんやりとした目でキーネスを見る。しかしそれも構わず、キーネスは質問を続けた。
「何故一人であんなところにいたんだ。ゼノはどうした。ローゼンは?」
「それが、途中ではぐれてしまって・・・ゼノ殿とは途中まで一緒だったんですけど・・・そうだ! ゼノ殿が!」
 そこでようやくシリルは覚醒したらしい。アルベルトの背中でがばりと起き上ったかと思うと、バランスを崩して落ちかけた。
「きゃあ! す、すみません! あれ? こちらの方々は・・・?」
「助っ人だ。リゼ・ランフォードにアルベルト・スターレン」
 リゼとアルベルトの姿を見て当惑するシリルにキーネスが淡々と言う。それに対し、シリルは姿勢を正すと明るい声で、
「リゼさんにアルベルトさんですね。シリル・クロウです。助けていただいてありがとうございます」
 彼女はそのまま頭を下げようとしたが、キーネスは「それよりも何があったか説明しろ」と言ってそれをさえぎった。
「あ、はい。途中までゼノ殿と一緒に猪の大群から逃げてたんですけど、途中でとても大きな猪が出てきたんです。ゼノ殿はわたしを逃がすために猪を食い止めようとして―――」
「大きな猪?」
「はい! 人間より大きいんです! それになんだか怒っているみたいで・・・速く助けに行かないと!」
 大きな猪とは先程遭遇したあの猪だろうか。シリルは今にもそのゼノという人物を助けに行きたそうな様子だったが、キーネスは少し考え込むと、
「魔物にでもない猪に襲われたぐらいであいつがくたばる訳がない。放っておいても大丈夫だろう」
 淡々とそう言って、今度はリゼの方に向き直った。そして不安げな様子のシリルを指し、キーネスは言う。
「ランフォード。さっさとこいつに悪魔祓いを」
「それは構わないけど、でもその前に少し――」
「時間が惜しい。速くしろ」
 キーネスは少し急いでいる様子だった。何を心配しているのか時折周囲の様子を確認している。
「待って。少し訊きたいことがあるの。あなた、この子について何か知ってる? それともこの子に訊けばわかるかしら?」
「知らなければ悪魔祓い出来ないのか? 確かにこいつの事情は特殊だが、悪魔憑きなのは同じだろう」
 その台詞に、シリルの表情が変わった。不安げな表情から酷く驚いたような表情に変わる。しかしリゼは彼女の方を見ておらず、その表情に気付くことはなかった。
「この子が普通とは違う理由くらい知っておきたいわね。悪魔祓いはそんなに簡単なことじゃない。話してくれないなら、上手くいかなくても文句言わないで――」