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 オレは茶の用意をすると来栖さん達の到着を待った。
 2時間後、来栖さんとその人がやってきた。
「こんにちは」
 来栖さんの隣りにはオレより年上の人が立っていた。
 年は20を越えてるだろう、少しウェーブのかかった髪にYシャツと黒いジーンズを穿いた彼は男のオレが見ても格好良いと思うほどだった。
「始めまして、央真仁です」
「あ、どうも…… 吉崎勇です」
 オレも頭を下げて自己紹介を行う、
 確かに感じのいい人だった。

 来栖さんと央真さんを家に上げると粗茶とこの前香奈の婆ちゃんからお土産で貰った温泉饅頭を茶請けに出すとテーブル越しにソファーに座った。
「仁さんは私の幼馴染で、兄みたいな存在なの」
 来栖さんは小さい頃に会社の都合で両親と供にアメリカに行き向こうの小学校に通っていた。
 卒業と同時に帰国した彼女は殆ど覚えていない日本の事に戸惑っていたが、社長である彼女の祖父からプラネット社の専務の息子である仁さんを紹介されたと言う、
「聖子は結構日本の事を勘違いし覚えててね、直すのに苦労したよ」
「もう、何時の話してるのよ!」
「悪い悪い」
 仁さんは白い歯を見せて悪戯っぽく笑った。
「最近じゃ仕事が忙しくて滅多に会えなくなったもんね」
「仕事?」
 アルバイトか何かか?
「ただのモデルだよ」
「えっ、すごい!」
 条件反射で言うけど大して驚かなかった。
 そりゃこれだけルックスが良いんだから職業モデルって言われて10人中9人くらいは納得できるだろ、
「そんな事より…… 吉崎君もコンテストに参加するんだって?」
「え、ええまぁ…… ラストがまだですけどね」
「聖子から聞いてると思うけど、実は僕もなんだ。君はどんな奴を造ってるんだい? 参考までに聞かせて欲しいんだが……」
「ああ、これです」
 オレは今まで書きとめておいたノートを仁さんに見せた。
 真剣な顔をしながらパラパラとページを捲る、
「なるほど…… 聖子も見るかい?」
「あ、私はいいわ。そう言うのは見ると面白みが無くなるから……」
 来栖さんは右手を振る、
「プログラムは友人にやってもらってるんですけどね、あとエンディングをどうしようか考えてるんですよ」
「ああ、そうか……」
 オレが言うとほんの一瞬、仁さんは目を泳がせて頬を引きつらせた。
 その時、聞き慣れない着信音が部屋中に流れた。
「あ、私のだわ。ちょっと出てくるね……」
 来栖さんは手提げ鞄の中から携帯電話を取り出すとダイニングから出ていった。
「ふぅ……」
 途端仁さんの顔から笑みが消えた。
 膝を組んでソファーの背もたれに体重をかけてノートを閉じた。
「……いくらだ?」
「えっ?」
「いくら出せばこれを譲るのかって聞いてるんだよ」
 な、何言ってんだこの人は?
 見開いた仁さんの目を見ると背筋が寒くなった。怒った香奈の時とは違う恐ろしさをその身に感じた。さっきまで感じの良い穏やかな人がガラリと変わって冷たい人間になってしまった。
「譲るって…… 何言ってんですか? そんな事できる訳……」
「出来ないって言うのか? オタクのくせに」
「なっ……」
 仁さんは吐き捨てるように言って来た。