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太陽のはなびら

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【暖かな村(3)】



4回目
 少年の住む小屋は、生活ができる最低限のものしかなかった。
あまりに質素。もし、今すぐそこから追い出されても何の不都合の無いような部屋だった。
少年はヒューイを鞄掛けに乗せ、本をテーブルの上に載せる。途中だった朝食を済ませ、身支度を整えた。
そろそろ子供たちに稽古をつける時間だ。壁に掛けてある樫の木で作られた剣を手に取り、それ専用の袋の中に入れ、肩に担ぐ。時計を見た。今から出れば、稽古の時間にちょうど間に合う。家を出ようとドアノブに手を掛けたとき、けたたましいノックの音が聞こえた。
「シン、起きてる?」
「ピリカさんですか? 起きていますよ。今出ます」
シンと呼ばれた少年はドアを開いた。
ドアの前には、一人の少女が立っていた。その少女は、絹の様なつやのある黒い髪の毛を腰辺りまで伸ばし、幾何学的な柄のバンダナを頭に巻いている。落ち着いた雰囲気から、少年より少し年上であることがわかる。整った顔立ちの、美しい少女だった。
「シン、今日は何か予定ある?」
ピリカと呼ばれた少女は尋ねる。
「今から朝稽古ですよ」
シンがそう答えると、ピリカは呆れた様な顔をして、ため息をついた。
「何もこんな日まで稽古なんてつけなくていいのに」
「いえ、僕が役に立てることならやらせてもらいたいです。村の人にはいろいろとお世話になっているので」
「ああ、そんなにかしこまらなくていいのよ。もうあなたは村の一員なんだから」
少女は屈託の無い笑顔で笑う。
「それにしてもシン。今日が何の日か覚えてないの?」
「何かありましたっけ?」
少女は少し悩んだ後、何か小さい子供が悪戯を思いついたような含み笑いをして、シンの手を取った。
「今日は稽古ナシナシ。その代わり、ちょっと付き合って」
「え、でも」
「いいのよいいのよ。皆は事情を知っているから」
「いいんですか? 村長さんに怒られますよ?」
「お父さんも解っているから大丈夫よ。それとも、私に付き合うのは嫌?」
シンがそんなことないと首を振ると、ピリカは満足そうに満面の笑みを浮かべた。
「決まりね。それじゃ、行こう」


作品名:太陽のはなびら 作家名:伊織千景