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超短編小説  108物語集(継続中)

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 幽斎先生のあまりの迫力に、まことに道理でござる、はっはー!
 あちこちから声が上がり、先生は恐悦至極の様。
 しかれど矢庭に吉男を指差して、「おい、そこの足軽、お主の『プラスワン』、言い換えれば生きる糧(かて)は、何ぞか?」と。
 そんなこと突然訊かれても……、それでも吉男は脳みそを絞って、自信満々に「お金です」と。

 シーン。
 この凜然とした武士に対し、なんとKY、すなわち空気読めない回答なんだろうか。会場が凍り付く。
 それにしてもこんなレス、戦国武将にとっては他愛もないこと。だが吉男は、ここで止せばよいのに調子に乗って、「先生も俗人でしょ、だからやっぱりプラスワンは――小判でしょ」と。
 心得の二番は、好まざることを口にすべからず、と学んだはず。それなのに誇り高き武将に対し、俗人と決め付け、小判とは無礼千万。
 会場はより長くて嫌な静寂に包まれる。あ〜あ、一刀両断に切り捨てられるかも?

 だが意外に、幽斎先生は少しにやけた表情で一言、「拙者の場合は――かぐわしき香りであり申す」と。
 しかし、誰も理解できない。ポカンと口を開けた受講者に、先生は続ける。
「我が妻は麝香姫(じゃこうひめ)と申しての、いつも良い香りを発しておって……、これが愛を深め、戦国の世を生き抜く力を与えてくれたのじゃ」