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超短編小説  108物語集(継続中)

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 さらに会場を見渡せば、他に新幹線の水さん、ブランコすり金さん、抜きのヒデなどがいて、S−1の幕開けを今か今かとみんな待っている。
 競技時間は3時間、街へと散らばり、一番金額の多い財布をスッてきた者が優勝者となる。

 昨年の覇者は『小指立て夕子』だった。
 夕暮れの混雑した繁華街、その細くて長い指で、ポケットからスーとなめらかに財布を抜き盗る。その瞬間に、まことに微妙だが、小指がエレガントに立つのだ。
 言ってみれば、それは白魚の舞い。まさにその様はしなやかで、かつ色気がある。同業のオッサンスリとジジスリっちにファンが多い。

 そんなアイドル、小指立て夕子、本日はどうも元気がない。
「仕立屋銀次さん、……、私、今年はS−1を辞退しようかと思ってます」

 これを耳にした声掛けのタマちゃん、「あっらー、小指が立たなくなったのね、可哀想」と嫌味な言葉を掛け、寄ってくる。
 なぜなら、特に年寄りや男性を標的として、甘ったるく声掛けして言い寄り、その隙に財布を抜き盗る。それを技としている、とんでもない女なのだ。

 夕子は、声掛けのタマちゃんがライバル意識を燃やしていることを知っている。だから余計に、哀れみで言い寄ってこられても鬱陶しい。
 小指立て夕子はそんなタマちゃんをシカトし、沈黙を続ける。だが、二人にはきつい対抗意識があり、このまま放っておけば、一触即発の事態に。そして突然に、女同士の取っ組み合いが……。