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エイユウの話 ~夏~

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「だから・・・その奇跡に賭けたいって言ってるんだよ!」
 初めての荒々しいキースの声に、キサカはつい怯んでしまう。それでも、彼が何を言っているのかはすぐ解った。彼もまた、ゼロの確率にすがっている。
 怒鳴りあう少年たちの間で、アウリーが恐怖で挙動不審になっていた。キサカは力尽きたように、今まで座っていなかったパイプ椅子にドスッと座り込む。前かがみになって、頭を抱え込んだ。いつものように、がりがりと勢いよく頭をかいて、はぁとため息をつく。
「お前、ラジィが好きなんじゃないのかよ。なのに何で・・・、あいつだって目が覚めるかもしんねぇのに・・・!」
 自分のことを一生懸命考えてくれているキサカに、キースは嬉しさを覚える。自分で倒した椅子を元に戻して、キサカとは対照的にゆっくりと腰をかけた。それから幸せそうな顔のまま、正面を向いてふわりと笑う。きっと、ただ前を向いているだけだ。
「彼女を不幸にするような幸せを、僕は望んでいない。彼女の失恋は、僕の失恋なんだよ」
 それは、キースの本心だった。ラジィの失恋は、キースにとって好きな子を守りきれなかったという自責の念を生み出し、ラジィのそばにいることでさえ彼は苦痛を感じてしまうだろう。優しすぎるゆえの、彼の欠点である。
 恋に疎いキサカには、そんなキースの難しい感情は解らなかった。彼は単純に、ばれたら終わってもいいと言っているのだと思いいたる。意味は違えど、キースの決意は伝わったのだ。とうとう彼は敗北宣言をする。
「・・・好きにしろよ」
 自分の解らないことにキサカがいじけてしまったことは、キースにはすぐばれてしまった。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷