小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

エイユウの話 ~夏~

INDEX|17ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

「彼女は、ゼロの確率に賭けている可能性がある」
 二人はキースを見たまま固まってしまった。声すら出て来ない。
 キースの言った、ゼロの確率。つまりは、あり得ない希望にすがっていると言うわけだ。要はキサカやアウリーも懸念していた、希望的観測のことである。もしその希望が無いことがわかったら、彼女はどうなってしまうのだろうか?それを考えると、キースは恐ろしくなった。
「・・・頼みがある」
 キースの震える声に、二人は何も言わずにキースを見る。声だけでなく、肩も目に見えるほどに震えていた。まるで、自分に命の危機が迫っているかのようだ。そこまで、彼はラジィを思っているのである。据わったままの目で、口だけを動かした。
「このことは、ラジィには黙っていて欲しい」
 キースのあまりにも自分勝手な願いに、アウリーはすぐ納得してくれた。いや、キースに嫌われるのが怖くて、うなずくことしかできなかった、というのが事実だろう。好感度を上げたい気持ちもあった。恋情というのは、時に人を打算的にするものだ。
 しかしキサカはあきれはてて責めたてた。
「俺たちが知っちまったことはしょうがねぇし、この場にあいつがいないのもしょうがねぇ。けどな、周知の真実を隠され続ける気持ちを考えろよ!」
 理解しがたい、憤った感情をただただぶつけたともいえる。思わずキースも怒鳴り返した。
「でも知らなくていいかもしれないじゃないか!」
「知ったときはどうするんだ!こんなに近くにいて、あんなに夢中で見続けてて!気付かねぇほうが奇跡じゃねぇか!」
 感情の高まったキサカが、何も考えずにカーテンの柱をたたきつける。ガシャンと大きな音がして、思わずアウリーは恐怖に身をすくめた。思わずキースも勢いよく席を立つ。パイプ椅子が音を立てて倒れたが、彼はそれを直さず真正面からキサカの目を捉えた。
作品名:エイユウの話 ~夏~ 作家名:神田 諷