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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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電話にまつわるへんな話

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相手はだれ?



 掃除をしているとき電話が鳴った。

「はい。△△です」

 出ると、男の声で親しげに名前をいわれた。

「K子ちゃん?」

「ええ、そうですけど……」

「おれだけど、わかる?」

「もしかして、Aさん?」

 こんな時間に電話をかけてくるのは保険会社の営業マンのAさんくらいだ。
 すると相手はそうだという。

「なに? また保険につきあえって? だめよ。もうめいっぱいなんだから」

 Aさんとは実家にいた頃から家族中で懇意にしているので、気を許したわたしはぺらぺらしゃべり出した。

「そうじゃないよ。ちょっとつきあってくれないかな」

 なんだか様子が違う。それによく声を聞くとAさんとは違うような気もしてきた。

「なにそれ。ねえ、ほんとうにAさん?」

「うん。そうだよ」

「声がちがうじゃん」

「いや、風邪ひいちゃってさ」

「ほんとう?」

「とにかく、K子ちゃんの行きたいところに連れて行ってあげるから」

「別に行きたいところなんてないもん。でも、なによ、さっきから」

「うん。実は仕事で失敗しちゃって……」

 賢明な読者はここで、この男が金を貸してくれと言うと思うだろう。

 さもありなん。

 ところがどっこい、違うのである。

 Aさんだと思い込んでいるわたしは、すかさず言った。

「失敗って、自分の不注意じゃん」

 この数日前、Aさんは車上荒らしにあって、現金と大事な書類を奪われ、会社から大目玉を食ったばかりだった。しかし現金は顧客から預かったものではなく、自分の小遣いだったのでそれは不幸中の幸いだった。
 現在は保険料の集金はやっていないが、当時は銀行の口座振替と集金扱いが半々だった。大量の顧客を抱えていれば集金の金額半端ではないはずだ。

 そのとき、車上荒らしにあったとAさんがしょげてうちにやってきて、愚痴を言ったので、わたしはてっきりそのことだとばかり思った。

 このあとも男は話し続けるのだが、どうもAさんとは違うようだ。
 ところが相手はわたしが疑い出すと、「風邪ひいちゃって」という。

 いい加減相手をするのがばかばかしくなってきたところで、運良くだれかが玄関にやってきた。わたしは来客だからと受話器を置いた。

 しかし、来客が帰ったあと、また電話が鳴り、でるとその男だった。
 電話番号を知っているということは自分の知り合いなのだろう、と思うとそうそう邪険にもできない。相手はさかんにどこかにドライブに行こうと言う。

 とうとう面倒くさくなったわたしは「今日はPTAの会合があるから」(それは本当)と言って電話を切った。そのあとはかかっては来なかった。

 それにしても、わたしは不愉快で気分が収まらない。今度Aさんにあったら文句の一つも言ってやろうと思っていたら、次の日、当のAさんがしれっとしてわが家にやってきたのだ。

 もちろん、わたしの開口一番は、

「何よ。昨日の電話は」

である。

 ところが、Aさんはぽかんとしている。わたしは昨日の電話のことを話すとAさんは

「昨日は出張で、こっちにはいなかったよ。第一そんな電話するほど暇じゃないよ」

というのだった。ついでに奥さんとはラブラブだとも。

 Aさんへの不審と誤解は解けたが、相手が誰だったのか、わからずじまいの出来事だった。