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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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電話にまつわるへんな話

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電話ボックス



「もう、つかれたぁ」
 だだっ広い田んぼが続く田舎道の真ん中で、加世子がへたり込んだ。
「やっぱり次の電車、待ってた方がよかったかも」
 ため息混じりに麻子がいうと、地べたに座ったまま、加世子が言った。
「そうよ。1時間も待つからって、なにも歩かなくても良かったのに」
 その二人を制して、輝美が言った。
「しかたないじゃない。もうここまで歩いてきちゃったんだから」

 三人は高校生。ちなみにまだ携帯電話のない時代の話である。日本国有鉄道がJRと名を改め、東日本、東海、西日本に分かれた頃のこと。ようやくこのあたりも電化され、電車が走るようになったが本数は少なく、1時間に1本あればいい方だった。
 この日、三人は学校の試験休みを利用して街へ出かけたのだった。ウインドウショッピングを楽しみ、ちょっと美味しいものを食べ、気の利いた小物を買って帰ってきた。
 しかし、電車は首尾良く乗れたものの、それは自分たちの降りる駅の一つ前の街の駅が終着だった。主要な駅までなら本数がある。しかし、三人が利用する駅は無人駅で、ちょうど運行本数が少ない路線だったのである。

 もう日も落ちかけて、あたりは薄暗くなっている。それでなくても秋の夕暮れは寂しく感じるものだ。
輝美がいう。
「もう、こんなに暗くなって来たのよ。頑張ろうよ。せめて広い道にでれば……」
「そうね。加世子。がんばろう」
 麻子も輝美のことばに励まされ、加世子の手を取って立ち上がらせた。

 三人はとぼとぼと歩き出したが、だんだんと空模様が怪しくなってきた。薄暗い空が真っ黒な雲に覆われ、夜のように暗くなって来たのだ。三人は雨が降ったらいやだなと思い、顔を見合わせると自然に足を速めた。

 ぽつ

 三人のほおに雨粒が当たった。

「やだ。雨よ。急ごう」

 輝美がそう言って、走り出すと、麻子が続いた。

「あ、まってよぉ」

 出遅れた加世子が二人の後を追いかけた。
 しばらく走ると、ようやく先の方に広い道が見えてきた。

「あ、あれ。国道でしょ」

 麻子が言ったので、輝美が答えた。

「そうね。あそこまで行けば、タクシーひろえるかも」

 加世子は肩で息をしている。

 雨はまだ小雨なので、それほどぬれてはいない。けれど、このまま歩き続けていればびしょ濡れになってしまうだろう。

 広い道は国道だった。ちょうど標識が立っていて、N町○○地区と書いてあり、右はM市、左はI町となっている。
車は数台走っているが、タクシーは見当たらない。

ふと見ると、数メートル先に電話ボックスがある。

「ラッキー。うちに電話するわ。この時間なら兄貴がいるの。迎えに来てもらいましょ」

輝美は走っていって、電話をかけた。そして三人は電話ボックスの中で窮屈な思いをしながら雨宿りをして待った。

やがて、輝美の兄がやってきて三人はこともなく家に帰ることができた。

さて、次の日のこと。

「昨日は助かったわ。ありがとね。輝美。お兄さんによろしくね」

教室で麻子と加世子が輝美に声をかけた。けれど、輝美の反応はいつもの明るさがなかった。

「うん……」

二人は顔を見合わせた。輝美はぽつりと言う。

「実はね。あのとき兄貴はわたしの電話で来てくれたわけじゃなかったの」

「ええ? だって、輝美。電話かけたじゃない」

「うん。そうなんだけど。たしかに兄貴と話したわ」

「じゃあ、どうして?」

「あのとき、たまたま近所の人が、わたしたちを見かけたんですって。でも、三人は乗せられないから、通り過ぎたんだって。それでうちにいって、兄貴に言ってくれたんだって」

「ええ!?」

 二人が大声を出したので、そばにいたクラスメイトが話に入って来た。

「そこ、もしかして国道128号線のN町○○地区の標識のあるところ?」

「え、ええ」

 三人は同時に返事をした。そのクラスメイトの言うことには、

「そこ、電話ボックスなんてないわよ。うちの近くだからよく知ってるもの」

ということだった。

 後日、三人は確かめにその場所に行ってみたが、たしかにクラスメイトの言うとおり、電話ボックスはなく、その痕跡さえみつからなった。


*これは当時高校生だったA子ちゃんから友だちの体験談として聞いた話です。本当はもっと山の中だったらしいんですが、そうするとたぬきかきつねに化かされたなんていうオチになりかねないので、国道沿いにしました。彼女らのこの体験は謎に包まれたままだそうです。