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数式使いの解答~第一章 砂の王都~

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《第二幕》砂の王都


 酒場の会計を済ませ、ローレンツとミリアの二人は宮殿へと向かう。
 城ではなく宮殿であるのは、都市そのものが城砦の役割を果たしているためだろう。もちろんそれだけではなく、何代か前の王が遊び好きだったことも関係しているのだろうが。
 王都ダランベールは、砂漠の中心にポカンと浮かんだ島のような都市だ。実際、陸の孤島と呼んでしまっても差し支えないだろう。
 都市の形状はほぼ円形で、中心部にはオアシスを整備した巨大な噴水があり、観光する際の名所になっている。噴水の周辺だけを見れば、ここはいったいどんな水の都かと思うこと請け合いだ。
 その噴水の周りは広場があり、そこから北側に行くと件の宮殿がある。
 ローレンツたちの出た酒場は広場から南、少し離れたところにあった。
 酒場の周辺はある種、商店街のようなものになっていて、武器や防具、薬を売っていたり、宿屋があったりした。このあたりの一角は、旅人のためのものでもあるのだろう。土地勘に慣れていない人のために、すぐ隣を大通りがはしっていた。
 あるものは何でも利用するのか、はたたま入った道が偶然そこだったのか、もしくは迷子になりやすいからチェックをしていたのか、どれが真相かはわからないが、ともかく彼らは大通りを通って広場に出た。
 広場は多くの人で賑わっており、活気にあふれていた。
 そこを抜け、一直線に宮殿の中へと入る。さすがに宮殿の前には衛兵がいたが、許可証を見せるとすぐに通してくれた。
 宮殿の中は豪華絢爛の一言に尽きる。
 キラキラと光る物がいたるところに鎮座しており、それらはすべて、緻密な作りをしている。当然、どれもかなり高価な品だろう。
 宮殿の玄関から正面に広間があり、その中央には王の間へとつながる階段があった。
 真っ赤な絨毯を踏みしめ、階段を上がる。
 王の間に着くが、これといって仕切りのような物はなく、広間の中央に玉座がある、というものだった。ただし、玉座の周辺には貴族や文官らしき者、武官や兵士の類が何人も控えていた。
 ローレンツとミリアは、片手片膝をついて頭を下げる。
 荘厳とすらいえる王の間の中心、王に向け、若干の緊張をはらんだ声音でローレンツは言葉を発した。
「ダランベール王陛下、ローレンツ・ヘンドリック、ただいま参りました」
 玉座に座る老齢の、厳格な印象を与える王はその言葉を聞き、
「うむ。良くぞ参った、<黒き弓>の息子よ。長旅疲れたであろうに、わざわざすまんな」
 温和そうな笑みとともにねぎらいの言葉をかけた。
 実のところ、ローレンツがダランベール王に接見するのはこれがはじめてのことではない。今までに数度、彼にとって親とも、師匠とも呼べる人に連れられ、ダランベール王に会っていた。
「――後ろおる主(ぬし)は?」
 ダランベール王がミリアにたずねた。
「わたくしはミリアと申します。先ほどローレンツに窮地を救ってもらい、しばしの間共に過ごしております」
 ローレンツのような固さは微塵も感じられぬ、凛とした口調であった。
(……はて、どこかで会ったような気がするのう。どこであったか……?)
 ダランベール王はそんな感覚を持っていたが、確証が持てずに訊くべきではないと思い直す。
 口元に蓄えられた白髭をいじり、本題へと入ることにした。
「して、ローレンツよ。何かわしに伝えたいことがあるそうじゃが。いったいどんな用向きかのう」

「はい、王陛下。実は、この都市を数日中にロピタルが襲うでしょうことがわかりましたので、その旨を伝えに参った所存にございます」

 ローレンツの言葉に王の間が騒然となる。当たり前の反応だ。
 天災として恐れられるかのロピタルが、自分たちの住む地を襲うなどとわかれば、声を荒げたくなっても仕方がないだろう。
「静かにせんか! 王の御前にあるぞ!」
 文官の、おそらく重鎮のうちの一人であろう老人が怒声を上げる。彼の一言で、場は水を打ったように静かになった。
 そして、王が口を開く。おそらく、この場にいる誰もが聞きたいであろうことをたずねるために。
「お主、なぜそのようなことがわかるのじゃ? ロピタルがどのような軌道を描き、どこを襲うのかということは、世界中の者たちが知りたくともわからぬことであるぞ」
「はい。このことを発見するのには、数年を費やしました。調べたところ、ロピタルにはニュートンの生きていたころに作られた精巧な地図が記録されているようなのです。そしてロピタルは、その地図に従って大都市を襲撃しているのです」
 その言に、王の間の者たちは驚きが隠せない。
 なぜなら、ニュートンが生きていたのは数百年前であり、その時代はまだ数式もさほど普及しておらず、地図に関しても未だ正確な物が見つかっていないからだ。
 つまりローレンツは、ニュートンが生きていた時代の地図を発見、あるいは作成したのである。
 これは快挙といえるだろう。
 だが、それだけでは終わらなかった。
 彼はその発見を用い、ロピタルの移動先を解明したのだ。
「――ただ、未だ確証の持てないものです。発表するのは無理だと思いましたため、内密に、王陛下の耳に入れておこうと思った次第であります」
 そこまで言ったところで、一人の男が突然飛び出してきて言った。
「貴様、妄言で王を誑かすつもりか!?」
 ローレンツの言葉に妄言のレッテルを貼り付けたのは、傲慢そうな黒髭の武官であった。
 その大男はそこで言葉を終わらず、
「――陛下! 惑わされてはなりませぬ! こやつは逆賊に間違いありませぬぞ。ロピタルがここに来るなどと虚言を呈しているだけでございます。すぐにひっ捕らえて打ち首にすべきかと!」
 そんなことまで言い出した。
 実はこの男、重鎮の一人で、忠義には厚いが少々思い込みの激しい者なのだ。
 こういってはなんだが、ローレンツは
(……厄介なやつにケチをつけられた。)
 と思っていた。
 しかしダランベール王は、重鎮の進言である以上そうそう反故にはできない。
 かと言ってローレンツを打ち首になどできるわけがないししたくもない。
(……せめてローレンツの言葉を完全に証明する物があればよかったのじゃが、ローレンツ自身で『確証が持てない』と言っておる以上、そんな物ある訳がないじゃろうし……。)
 どうしたものかと思い、仕方なく妥協案を提示した。
「主ら、決闘をせい。それで勝った方の言葉を真とする。負けた側はしばしの間宮殿への立ち入りを禁止。勝敗は参ったの一言か、続行不能と判断された際に決定。殺すことは認めん。これでどうじゃ?」
 依存ありません、とローレンツ。
 武官は不服のようであったが、ここで言葉を続ければ逃げともとれる。『逃げ』というものは武官にとって恥辱以外の何物でもない。そこまで考え、了承した。
「では、明後日の正午に広場にて行う。双方、準備、鍛錬を怠らぬように」
 ダランベール王がそう締めくくり、ローレンツとミリアは宮殿を後にした。

 宮殿を出ると、外は夕暮れの朱に染まっていた。
 二人は昼間のうちにとっておいた宿屋に行くことにする。
 どうやら、それぞれのとった宿は同じ方向にあるらしく、二人で揃って歩き始めた。