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数式使いの解答~第一章 砂の王都~

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 しばらくすると、ミリアが口を開いた。
「どうやって昔の地図なんて手に入れたの?」
 ずっと疑問に思っていたことをたずねる。
「……暴露すると、昔の地図なんてない」
「えっ!?」
 驚くのは当然だろう。
 王に進言した内容は、地図があるからこそできる予測のはずだ。これがないとなると、王にした進言は虚言、つまりは武官の言ったとおりになってしまう。
「ああ、だからといって根拠もなく言ったわけじゃない。昔の大都市が狙われているってのは本当だ。ただ、地図を作るなんてのは無理だから、聞いて回ったんだ。世界中の街について」
 慌ててそう言う。
 だが、その内容を聞いたミリアは唖然とした。
 ……世界中の街で昔の様子を詳しく訊く!? そんなこと、何でできるの?!
 彼女がそう思うのも仕方ないだろう。
 一人旅で親しげな会話をすることが比べ物にならないほど、気の遠くなるような作業だ。
 彼は王に数年かかったと言っていたが、普通なら数年どころか数十年、数百年かかってもおかしくはない。
 そんな途方もない作業を完遂するには、強い精神力が必要だ。そう、脆弱な精神では作業の途中で心が折れ、諦めてしまうからである。
 だがそれを乗り越え、ローレンツはやってのけたのだ。
「……どうしてそこまで?」
 ミリアは、その執念とでもいうような鬼気を怖いと思い、同時にそれを知りたいと思った。
 対する返答は、
「……スマン、言えない」
 否定の言葉だった。
 どことなくぎこちない空気が漂う。
 それから二人は無言で、それぞれの宿へと向かった。

 ローレンツは自分の予約した宿の前に着くと、言った。
「俺、ここだから」
「わたし、ここだから」
 二人の声が重なる。
 顔を見合わせ、
「ミリアも!?」
「ローレンツ君も!?」
 またも重なった。
 二人の声を聞きつけたのか、宿の中から女将さんが顔を出した。
「やぁ、お二人さん。おかえり。ずいぶんと仲がいいねえ。あんたたちが言ってたとおり、相部屋でも問題ないみたいだね」
 ニコニコと笑顔でそんなことを言った。
「「あ、相部屋ぁ!?」」
 今度は言葉までまったく同じ。
 その様子を見て女将さんは、とうとう笑い出してしまう。
「あっはっは! あー可笑しい。まったく、あんたたちは面白いねえ。――で、相部屋の話だけど、ちゃんと話しただろう? 受け付けるときに相部屋でもいいかって。まぁ、異性ってのは言い忘れてたかもしれないけどね」
 二人は、あ、と一言漏らしたのち、女将さんが最後につけた一言に対して文句を言ったが、
「だけど確認しなかったあんたたちもあんたたちじゃないかい? それにお互い嫌っているわけじゃないだろう?」
 という女将さんの一言に負け、二人はめでたく(?)相部屋となった。
 女将さんの先導で二階に案内され、荷物を降ろすと二人はそれぞれのベッドに倒れこんだ。
 やはり、久々のベッドは気持ちよく、ここのところ砂漠のど真ん中でキャンプをする生活が続いていた二人にとって、それは抗いがたい誘惑だった。お風呂に入ることも久しぶりのはずだが、そんなことよりもこの倦怠感に身を任せ、眠ってしまうことを身体が欲していた。
 いつの間にか二人は安らかな寝息を立て始め、久しぶりに、たっぷりと睡眠をとったのだった。

 翌朝――。
 ローレンツは危機に瀕していた。
 具体的には、眠っている女の子を襲おうとしたという汚名を着せられ、社会的に抹殺されかねないという危険が、彼の身には降りかかっていたのだ。
 なんと、旅の服を脱いで半裸になったミリアが、自分のすぐ隣で眠っているのである。
 ミリアの姿を説明するなら、いわゆる下着姿というやつで、さらに付け加えるとすれば、着崩れしていた。形のいいおへそは当然のように見えており、上の服はわずかに捲れあがってしまっている。
 そんな姿の女の子、しかもとびきり美人で可愛い娘が隣で寝息を立てているのだ。
 一人旅を延々続けてきたローレンツにとって、これはいささか刺激が強すぎた。
 どうなったかと言うと、パニックに陥って体が動かないのである。
 少し冷静になって考えれば、さっさとベッドから抜け出して見ないようにすればいいだけの話なのだが、彼はそれが思いつかない。正確には、考えが回らない状況であるのだが。
「んう……」
 ミリアが寝返りを打ち、なにかむにゃむにゃと言う。
 そして、ふと起きあがった。欠伸をし、身体をぐぅっと伸ばす。
「ふぁ……んー! ふぅ……?」
 今の状況を鑑みる。どうやら寝起きはいいようだ。
 無言、そして――。
「キャアアアアアアア!!」
 朝っぱらからはた迷惑な大絶叫が、王都の空に響いた。

「本当にゴメンナサイ!」
 手を前で合わせ、頭を下げて謝るミリア。
 宿の一階にある食堂の席に座り、朝食を前に言った言葉であった。
 向かい側に腰掛けているのは、顔の片方に赤い手形をつけたローレンツである。
「だ、大丈夫だ。ほら、朝食もあるし食べよう? 早く食べないと冷めるしな?」
 少し困っている様子だ。
「許してくれる?」
 ちょっと目がウルウルしている。
 その様子にローレンツは一瞬ドキリとしたが、
「もちろん。だから、食べよう?」
 と、できる限り平静を保って言った。
 そんなローレンツには微塵も気づかず、ミリアは無邪気に、わーい、やったー! と言って笑顔になり、おいしい朝食を食べてさらに笑った。
 ちょうど食べ終わったときだ。
 ミリアの服が後ろからくい、と引っ張られる。
 振り向くと、ちいさな男の子がいた。
 年は十に満たないだろう。くすんだ茶色のくせっ毛と、頬に浮かんだそばかすが特徴的だ。
 ミリアは椅子から降り、その子と目線を合わせるようにしゃがむと、
「どうかしたの?」
 そう言った。
「あんたたち、旅人なんだろ。だったら、数式教えてくれよ」
 ぶっきらぼうに、子供が答えた。
 食堂のカウンターに立っていた女将さんがこちらの様子に気づき、
「マルコ! あんたまた旅人さんに数式を教えてくれるようねだってんのかい? いい加減に諦めな! 旅人さん、すみませんねぇ」
 カウンター越しに謝る女将さん。
「いえ、大丈夫ですよ。なんなら、教えてあげましょうか?」
 ミリアがそう言った。
「いいのか?」
 少し見上げるようにしながら、マルコ少年はどこか不安そうに訊く。
「いいよ、マルコ君。数式を教えてほしいんでしょう?」
 そんな様子を察してか、ミリアはニコッと笑って答えた。
「ガキ扱いするなよ。……ま、教えてくれるって言うんなら教わってやらないこともないぜ」
 そっぽを向いて言うマルコ少年。
「こらマルコ!――すいません、旅人さん。ありがとうございます」
 そう言って女将さんは再び頭を下げる。
「気にしなくて大丈夫ですよ」
 にっこりと微笑み、ミリアは言った。

 宿の外に出て、ミリアとマルコは会話を始める。
 すぐそばにはローレンツもいるが、彼は様子を眺めているだけのようだ。
「マルコ君は学校には?」
「行ってない。行くような時間も、お金もないってかぁちゃんが言ってた」
 その言葉にミリアは、そう、とだけ答えた。