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数式使いの解答~第一章 砂の王都~

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《第五幕》天災、襲来


「なぁ、糸目の奴が《必然の不正解(ノーアンサー)》なんて言ってたけど、その力って何なんだ?」
 ローレンツがポツリと呟いた。
「……わからない。物心がつくころにはもう使えてたもの。《必然の不正解(ノーアンサー)》なんて言葉も初耳よ」
 答えたミリアの瞳は、すでに先ほどまでの異常な輝きを失い、濃い赤の色になっている。
「まったく、<銀狼>とか言ってた糸目め。……ん? そういえば最後にあいつなんか言ってなかったか?」
「…………あ、ロピタル」
 さっと二人は立ち上がる。
 耳を澄ませば、砂漠から重低音が響いていることがわかる。
 目を凝らす。砂漠の真ん中、陽炎の揺らめく道を進む巨体がひとつ。
 その姿を見とめたローレンツの形相が、歪む。
「――遭いたかったぞ、ロピタル……!」
 手に強い力がかかり、手甲が軋んだ音を立てた。
 そんなことはいざ知らず、ロピタルは砂の海をゆっくりと、確実に進んでくる。
 ローレンツは懐から新しいホルスターを取り出す。挟まれている数式符はすべてブレークだ。
 その中の一枚を破きながら、ローレンツはミリアに言った。
「ここからだと大した速度に見えないが、アレはだいぶ速い。今から攻撃して破壊するぞ」
「わかったわ」
 ミリアの返事を聞くと、数式符のベクトルをロピタルへとしっかり向け、照準を合わせると言った。
「"貫く、光速――ルーメン"!」
 熱を伴った光が、ローレンツの周辺に収束。光弾は力を溜め、刹那の後一筋の線を発した。
 ――砂漠を、一本の光が貫いた。
 ロピタルに直撃し、粉塵があがる。あまりの高温に、粉塵すらも燃えていた。
 ルーメンは光線を砲撃する数式だ。
 まともに動作させるには、数式符を千枚無駄にしろと言われるほどに難度が高く、最難の単位式として名高い。だが、だからと言ってこれほどまでの威力は無い。
 ここまで威力が高いのは、<追加詠唱>と呼ばれる技術のためだ。
 ブレークにおいてよく用いられる技術であり、数式名を唱える前に理論や定義を口に出すことで、数式に与えるエネルギーを増加させるというものだ。
 これによって威力を底上げされたルーメンは、砂漠を割ってロピタルへと伸びる。
 いかに《古代数式集(アーティファクト)》といえ、これほどのエネルギーを受ければ破壊されてもおかしくない。
 だが、――光線が、粉塵の中から現れ、ローレンツの横を掠めた。
 ローレンツの後ろ、ダランベールの外壁に当たり、壁が爆ぜ飛ぶ。
「な、どうなってるんだ……?!」
 塵が飛ぶ中、ミリアとローレンツは見た。
 ロピタルの装甲に、傷ひとつ付いていないその姿を――。
「反射……? いえ、分散と併用しているのね」
「そういうことか。ふざけてるな」
 ロピタルの装甲には、数式が書き込まれている。
 ロピタルにかかる外力が平常時どの程度なのかという、膨大かつ複雑な計算を行い、平常時以上の外力を分散、反射するための数式が。
 ベクトルなら当然、方向を持たない熱などのスカラーさえ、ロピタルにとっては装甲が勝手に守ってくれるのだ。
「ローレンツ君、ロピタルって結局なんなの?」
「あれは一応『移動城砦』のはずだ。あんまり詳しいことはわからないけど、城砦であることは確認した」
「なら、中から止められない?」
「! そうか、その手があった」
 ローレンツはすぐさまマッハの数式を発動させ、ロピタルへと近づく。
 一息でロピタルの元へと着き、彼は音の世界からそれを見た。

 キュラキュラと音を立てる移動装置。複数のタイヤを、一本のベルトで連結させることにより悪路の走行を可能にしているその脚を。
 高くそびえ立つ分厚い城壁。彼の放ったルーメンを受け、弾き返すという荒業を行った、完全なる防御機構を持つその胴を。
 五本それぞれが自由に可動するハンマー。人のそれと同じ形になっており、その機能までも人に限りなく近づいたその手を。
 この世を見下ろす頂上。下顎が張り出し、口の間からは煙が漏れ、眼のようにあけられた二つの覗き口がついたその顔を。
 その姿は移動城砦などという物ではない。
 まさにそれは、巨大なる人であった。

 砂塵を上げ、前へ前へと無機質に進む仇敵の姿を、ローレンツはその目で見たのだ。
 彼は己の中に生まれかけた雑念を払い、ロピタルの入り口を探す。
(……あった。)
 ちょうど背中の真ん中、人であれば背骨が通っている部分に、梯子が取り付けられていた。
 マッハを使用している彼にとって、ロピタルの動きは動いていないものと変わらない。背中側へと回りこみ、箱のような脚部をよじ登る。そして、梯子へと移動して今度はそちらを登り始めた。
 さして苦労もせず登頂へと辿り着く。だが、肝心の入り口は、鉄の板一枚で塞がれていた。
 ただの板なら彼は楽に破っていただろう。しかしこれは、ロピタルの一部としての板なのだ。あらゆる外力を分散反射させる防御能力を持つ、無敵の板なのだ。
 おそらくロピタルの機構のひとつだろう。起動中に外部から進入されることを防ぐため、取り付けたものだと考えられる。
 ローレンツはマッハの効果が解けたことにも気づかず、呆然となる。
 やっと遭えた仇だというのに、傷のひとつすらつけられない絶望に。
 無言で慟哭する復讐者を乗せ、ダランベールへと、ロピタルは進む。

 ミリアはその様子を、自分に近づいてくる、という形で見ていた。
 すでにミリアとロピタルの間は、百メートルを切っている。
 高さ二十メートル、幅二十五メートル、縦二十五メートルの大質量が、地響きを鳴らしながら近づいてくる。
 ダランベールの人々は、その姿を見るや否や、恐れをなして逃げ惑っている。
 しかし、ミリアは逃げない。怖くないわけが無いのに。
 ローレンツが帰ってこない以上、中から止めるのは失敗だったのだろう。
 だが、だからと言って逃げていい理由にはならない。
(……ローレンツ君が帰ってこないのは、直前で逃げ出したから?)
(……ローレンツ君が帰ってこないのは、何かのアクシデントで死んでしまったから?)
(……ローレンツ君が帰ってこないのは、――)
「どんな考えも、違う。……ローレンツ君は、帰ってくる!」
 想いを言葉に変え、断言した。
 それは自分に言い聞かせるものではなく、人に聞かせるものでもない。
 ただただ自分を奮い立たせる、決意の言葉。
(……彼が帰ってくるときに、胸を張れるだけのことは、しないとね!)
 ロピタルとミリアの距離は、残すところ三十メートルと言ったところだ。
 ブレークを書いているような時間は無い。
 だから、化け物と呼ばれた力を、使う。
 彼女の赤い目が、紅く煌いた。
「――「十万千三百二十五の力、七百六十の水銀、零なる海面の空――アトム」――!!」
 硝子が割れるような、甲高い音が長く響いた。
 瞬間、緋色の瞳を持つ彼女の前に、大気の壁が顕現していた。
 巨人の上半身を持つ城が、壁に激突。
 衝撃音。
 直後、壁がたわんだ。しかし砕けるようなことは無く、巨人の体当たりを受け止めた。
 だが、長くはもたないだろう。
 少しでも長くもたせるべく、燦然と瞳を輝かせて、ミリアは詠唱を繰り返す。