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数式使いの解答~第一章 砂の王都~

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 そして、紅い眼の彼女は言葉を発する。いつもと同じ彼女の声で、いつもと違う彼女の声で。
 紡ぐ言の葉はローレンツも親しみ深いとある数式。だが、その単語に乗る意味が、まったくの異物。まるで異世界の言葉のように、数式の世界に響いた。
「――「ミリバル」――」
 数式が、発動した。
 数式符を用いず、数式がこの世界の物理現象に干渉した瞬間だった。
 ミリバルの直撃を受けた盗賊は、何が起こったのかわからない、といった様子だ。
 場を、静寂が包む。
 だが、それも一時のこと。一人が、ボソリと言った。「化け物」、と。
 恐怖は伝播し、それは本能と共にパニックを形成する。
「ひい、ば、化け物だ」
「魔女だ、魔女に違いねえ! い、いやだ、死にたくねえよ」
「ああああ、助けてくれ、頼む!」
 紅い目の少女に、盗賊たちは怯える。居てはならないものの存在を、確認してしまったがために。
 目を背け、その場から少しでも離れようと、必死で足を動かす。
 しかし、それは途中でできなくなった。
「あ、れ? 脚が? 俺の脚が、足が、あしがあぁああ!?」
 彼の下半身は太股から先が消えていた。
 断面が粗く、引き千切ったか咬み切ったようだ。
「あきまへんわ。金の分は動けって言うたのに、動けへんなんてなぁ。しかも逃げ出すなんて。そんな脚、いらんやろ? やから、ボクが貰うてあげるわ。ほかに、脚のいらん子おる? 今ならさくっと取ってあげるで?」
 糸目が、その手に持った物を玩びながら言う。
 彼の手が動くたびにジャラジャラと音を立てる鎖の先には、牙のような、爪のような刃物がついている。そこに引っかかっていたのは、人の脚だった。
 だが、それを見た盗賊たちは、逃げなくなっただけだ。畏怖と恐怖に挟まれた者たちは、足が竦んで立つことすらままならない。
「あーあー、まったく。しゃーないからボクが戦うことにしますわ。そうゆうわけやから、ちょっと待ってーな?」
 糸目はミリアにそう言うと、手の得物を振り回してその場にいる盗賊たちを皆殺しにした。
 ただの一人も例外はなく、ほんの僅かな心配りもない、皆殺しだった。
 ミリアは糸目に狂気を感じ、怯えるが、逃げられないことを理解し、勇敢にも戦闘態勢を整える。
 ズ、とローレンツがミリアの前に出た。
「ロ、ローレンツ君?!」
 その驚きは二重の意味を孕んでいた。
 ひとつは、糸目の強さは目に見えてわかっているのにもかかわらず、自分の前に出たこと。
 もうひとつは、
「――わたしは化け物なのよ? なんでわたしを普通の女の子みたいにかばうの?!」
 異能を持つと知ってなお、ミリアを特別扱いしなかったことに対する驚きだった。
 目の端に小さく涙を溜め、かすかに震える声でミリアが問う。
 その答えは、
「そんな風に怖がる女の子の、どこが化け物だって言うんだ」
 当たり前のように、そう言った。
 その様子を見て、糸目が
「気に入らんなぁ、その態度。《必然の不正解(ノーアンサー)》の力を目の当たりにして平然とする、その態度が気に入らへんねん。うーん、でも興味もあるし……せや、今日のところは二十人も殺して殺人に飢えてへんから、見逃したるわ。<銀狼>なんて呼ばれてるボクが、こんなことするなんて珍しいんやからな。んじゃ、すぐにロピタル来るけど、あんまし簡単に死なんといてな?」
 と、言いたいことだけ言うと、姿を消した。
 なんだったのかと、少しの間混乱したが、落ち着いてくるにつれて窮地を脱したことを理解する。
 二人は、はあぁ〜、と長く息を吐き、尻餅をついた。