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CROSS 第18話 『Embassy』

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「これぐらいしか、使い道ないよな〜!!!」

 山口は、大使館からかなり離れたところに、良さそうなBARを
見つけ、そこで一人飲んでいた。
 そこへ、一人の男が山口の隣りに座った。その男は、理系っぽい
男だった。
「あなたは、758号世界の山口さんですね」
その男は、いきなりそう話しかけてきた。山口は、一瞬、隠し持っ
ている拳銃を構えようとしたが、せっかくいい気分で飲んでいるの
だからと、思いとどまった。
「そうだと言ったら?」
「我々のようなコーディネーターを誕生させる技術に興味ありませんか?」
「……どういう意味だ?」
顔には出さなかったが、山口はとても興味があった。その技術を
入手するのは、非常に難しいことだからだ。
「このメモリースティックの中に、その技術が入っています」
「それで? ただでくれるわけじゃないだろ?」
「ええ、そうです。ここプラントの食糧事情が悪いのは御存知ですか?」
「知っているよ。このつまみの値段、高すぎるだろ」
「それはすみませんでした」
「は?」
「申し遅れました。私はこういう者です」
男はそう言うと、名刺を渡した。
 名刺には、その男の所属と名前が書かれていた。その男は、食糧
生産の事業に参加している科学者らしかった。
「このメモに書かれている野菜や果物の種が欲しいのです」
次にメモを渡してきた。
「種も禁輸じゃなかったっけ?」
山口は思い出したように言った。
「あなたには外交特権があるじゃないですか」
「……しかし、危ない橋は渡れんな」
山口は悩んだ。
「じゃあ、こうしましょう。先に技術をお渡しします。それで気に
入っていただけたなら、種をください」
科学者からの申し出を山口は受けいれることにした。いざとなれば、
バックれてやればよいからだ……。
 山口が納得すると、科学者は嬉しそうにしており、技術が入った
メモリースティックを山口に渡した。そして、自分の払いを済ませ
ると、BARから出ていった。


 その1時間後、山口はすっかり酔っ払った様子で、BARをあと
にした。代金は高かったが、それでも外交機密費は、まだ残ってい
た……。