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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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クラインガルテンに陽は落ちて

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第3章 デビュー



 2月に入ってから本格的に職探しを始め、そろそろ1ヶ月が経とうとしている。この間に2社ほど面接を受けたが、どうも気が進まずこちらから断りの連絡をした。特別抜きん出た才能があるわけではない50歳の中年男に、会社を選り好みしている余裕などないことはよくわかっている。ただほんの少しの欲とプライドがそうさせているのだと自分を納得させていた。
 ところが3月に入って僕の職探しは急転した。数年前の取引先であるH工業の社長が亡くなり、その葬儀の席で次期社長となるその息子から、会社の経営を手伝ってほしいというオファーを受けたのだ。亡き社長の人柄と手腕により、H工業はこの不景気にもかかわらず、売上げも利益も着実に延ばしていた。僕はこの思いがけない展開を受け入れることにした。
 就職先にほぼ目処がついたと同時に、僕はクラインガルテンの当選通知のことを思い出した。バレンタインの日に送られてきたあの当選通知だ。
「そう言えば、あれはどうなっただろう」
そんなことを考えていた矢先、区から『クラインガルテン/使用の手引き』という冊子が送られてきた。季節ごとの作業、使用に当たってのルールなどが分かり易く記載されている。月に何度か契約農家が指導に来てくれるというのもありがたい。
新しい職場とクラインガルテン。図らずも僕はこの4月から同時に新しい2つのことを始めることになった。
 通勤電車の中には袴姿の若い女性がチラホラ見受けられるようになった。卒業式のシーズンだなと感じながら、僕も今の会社を今月一杯で卒業するのだと思うとちょっぴり寂しい気もした。良いことも悪いこともあったが、30年近く勤めた会社となればそれなりに愛着もある。
 春分の日が過ぎ最後の出社日を迎えた。普段と同じように僕は仕事をこなし、退社の時間が来た。事務の女性社員から大きな花束を貰い、同僚に見送られ、僕は二度と来ることはないであろう会社を後にした。胸が少しだけ熱くなった。