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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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クラインガルテンに陽は落ちて

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 家に帰ると妻が長年の勤務を労ってくれた。僕たちはビールで乾杯し、この30年間に会社であったいろいろな出来事を懐かしんだ。
 1週間ほど有休消化で休んだ後、満開の桜の下、僕はH工業に初出社した。初日は気が張っていたせいもあり、あっという間に一日が終わった。前の職場に比べ、アットホームな雰囲気に不思議と緊張感は少なかった。
 そして4月最初の週末がやってきた。今度はクラインガルテンデビューだ。晴天に恵まれ、僕は張り切って土を耕した。無心に石ころや古い根を取り除き、気が付いてみると曲げ続けていた腰が伸ばせなくなっていた。
 初日から張り切りすぎたと感じた僕は午前中で作業を切り上げ、手を洗いに水道の方向に進んだ。ちょうど一人の女性とかち合ったため、僕は「お先にどうぞ」と水道を譲り、痛めた腰に手を当てた。初めて会ったその女性は僕の腰を心配してくれ、水は最初に汲んでおくと便利だとアドバイスしてくれた。麦藁帽子の下から見えた白い歯がやけに印象的だった。
 彼女の名前が宮森由樹だということを知ったのは、その1ヵ月あとだった。