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真田昌幸さんの謀略

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 一五八三年の春。
「えええええええええええ!?」
 荒砥城 のお殿様、屋代秀正は主君として忠誠を誓った徳川家康からの手紙を読んで叫んだ。
「なにそれぇぇえええええ!?」


 事の発端は半年前にさかのぼる。
 屋代秀正は、自分の城である荒砥城ではなく、上杉景勝の命令で、村上景国 と一緒に(と言うより彼の部下として)海津城を守っていた。しかし、二人の間には、微妙な空気が流れていた。
 なぜなら。
 三十年前の一五五三年に、屋代秀正の父は、村上景国の父を裏切ったという過去があるからである。
 村上景国の父、村上義清は、かつて信濃国の北と東でブイブイ言わせていた独立した豪族であった。甲斐 で父親を追放し、大名となった武田信玄という若造を、二回も痛い目に合わせ、世はまさに村上義清の黄金期。この勢いで信濃を統一するかのように思えた。屋代秀正の父、屋代政国は、その村上義清の親戚で、家来だったのだ。
 しかし、裏切りが起こって、村上一族は武田信玄にボロ負けし、越後の上杉謙信の元へ逃げて行った。そして代わりに、北信濃は屋代一族が(武田の威を借りて)ブイブイ言わせることになったのである。
まあ、それも一五八二年に武田が滅びるまでの話であった。
 
 そんな父の代における因縁があるので、村上景国は屋代秀正に会うたびに、恨めしそうな、しかし相手にそれを悟られまいと、視線を泳がすようなことをするので、城内にアッと言う間に噂が広がった。
「村上様は、屋代様を信用なさっておいでではないようね」
「あったりまえよぉ、誰がそんな人を信用するものですか」
「いやいや、私は屋代様は本当に反省しておいでで、心から忠誠を誓っているようですよ」
「いやいや、屋代様が忠誠を誓っているのは上杉様でしょ。村上様ではないわ」
「あらぁ、また村上様を蹴落として、屋代様がこのお城を乗っ取るのかしら」
「イヤーン、屋代様ってぇ、野☆望☆家(はぁと)」
 こんな状態では、お城の守りなど、うまくいくはずがなかった。
 海津城の空気は悪くなる一方である。
 解決の糸口は見えなかった。部下が気を効かせて、交流を深めるための宴会を企画しても、上司の二人が顔を合わせるとおじゃんになるのである。
「やあ、秀正! 今日も良い天気だね!」
「いやいやいや、景国くん、二の丸からの景色はあんまり良くないから天気が良いかどうかなんて分からなかったよ。本丸からの眺めはさぞかし良いんだろうねぇ」
「……そ、そうかなあ? いやあ、でも裏切り者の血筋が同じ城にいると思うと、おちおち空も眺められなくてね。ずっと二の丸の方ばかり見てしまうよ。いやはや参ったね」
「そう言えば部下が話していたんだけどねぇ、他国でぶらぶらしていた兄が突然、家に帰って来て、いきなり、家主は俺だ、なんて言い始めて、困っているって話していたよ。家主は当然、ずっと家で暮らしていた弟がなるべきだよね」
「その話にはちょっとウソが混じってると思うなあ。兄は弟の薄汚い謀略で追い出されたんじゃなかったっけ? やっぱりそこは、当然、清廉な兄が家主になるべきだと思うなあ」
「はっはっはっは! 景国くんとはとことん意見が食い違うねぇ!」
「ほんとだねぇ、秀正! あはははは!」
 下手をすれば、内乱で海津城がガタガタになりかねない状況だった。
 真田昌幸の使者が屋代秀正の元を訪れたのは、そんな時だった。手紙には次のように書かれていた。

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  元同僚の屋代秀正くんへ

 やあ、こんにちは。武田時代に同僚だった真田昌幸です。今は敵味方に分かれているけど、元気してる? 実は君に耳寄りな情報を持って来たんだよ。僕は今徳川家に仕えてるんだけど、実はツテを使ってね、徳川家康様に君のことを紹介したんだ。そしたら是非、配下にほしいって言っててね。海津城なんかで腐ってないで、自分の荒砥城に帰ってきなよ。そして村上なんかと組ませた上杉なんか見限って、徳川に味方しなよ。これはすごくいい話だぜ? 返事は早い内に頼む。
                   
真田昌幸より
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 屋代秀正は、アレ、真田昌幸は今年の春には、北条の配下になっていたような……と不思議に思ったが、何はともあれ屋代秀正はその助言を喜んで聞き入れた。村上景国にはいつか暗殺されるように思っていたからだった。
 秀正は家来を引き連れて、荒砥城に逃げ込んだのだった。
 それが一五八二年の秋のことである。
 そこに、元主君の上杉景勝から手紙が来た。


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荒砥城の屋代秀正様へ 

 最近は山の紅葉も麗しく、争いの世を忘れてしまうような景観ですね。ますますお元気なご様子で、良うございます。
 ところでちょっと、とある筋に聞いたのですが、何やら勝手に荒砥城に帰ってしまったみたいで、私は大変怒っています。私は確か、三十年も親子ともども私達に仕えてくれている村上景国くんと一緒に、海津城を守るように屋代秀正様にお伝えしたはずでした。武田ではまた勝手が違ったのかも知れませんが、あなたはもう上杉の武将なので、自分の判断では動かないで、もっとちゃんと行動してもらいたいものです。
 これだけでしたら、私は注意するだけで済ませようと思ったのですが、村上景国くんから、気になるお話をお聞きしました。
 今、我々上杉と、徳川の間に不穏な空気が流れているのはご存知ですね? 徳川家康は北信濃の領地を狙っているのは明白なのです。そんな状況なのに、あなたがその徳川に、密かに通じているという話をその二人から聞いたのです。どういうことなのか弁明を聞きたいと思ったのですが、そんな時間は無いので、攻撃しちゃいます。よろしくね。
                    
上杉景勝より
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 屋代秀正は懸命に戦った。何回も上杉軍をけちらしたが、こちらは小さな豪族。相手は大名。段々反抗する力を失いつつあった。屋代秀正は、真田昌幸のツテで新たに仕えた徳川家康に援軍を求める手紙を出した。もちろん、上杉軍相手にどれほど奮戦しているかを伝えてからである。
 そしてついに、待望の徳川家康からの手紙が来た。

作品名:真田昌幸さんの謀略 作家名:小豆龍