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このところ残業続きの男は、今日から明日に跨ぎ、深夜と早朝の狭間のような時間に事務所の扉を開けた。
扉が閉じる。通常ならば、男の後で扉が閉まり、通路からエレベータへと歩いて行く。
だがここ最近は、扉を閉じ、鍵を掛けなければいけない。
ガチャッ「よし」
エレベータを待つ間、メールをチェックする。
新しい着信がないのは分かっていた。ただの手持ち無沙汰を解消する行動に過ぎない。
昼間でも人と擦れ違うことはほとんどないが、本当に静かだ。
窓から見える景色は暗闇に包まれている。
春先だといっても、この時間の空気は冷たい。
建物を出て、少し肩を竦め、駐車場へと向かった。
周囲の明かりがある時間は、多少は明るいが、ビルの明かりもひと気もないこんな時間は不気味に暗い。
まあ、少しは慣れたものの、やはり好きになれる状況ではない。
男はリモコンでロックを開けると車のオレンジ色のランプが点灯した。
乗り込みエンジンをかける。駐車場から道路へと出た。
鞄は、助手席に置いたが、信号待ちでスーツの上に着ていたジャンパーを脱ぎ、後部座席に投げた。
少し、違和感が残り、バックミラーで後部を見たが、何も変わりはなかった。