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Episode2,約束


 
 兄貴が転校してきてから数日過ぎた。
 体育館では兄貴とバスケ部員が試合をしていた。しかも5対1でだった。
 体育館では兄貴を見ようと生徒達が集まっていた。どちらかと言うと女子が多い、
 ウチの学校のバスケ部はそんなに弱い訳では無い、地区予選ベスト8までは行けなかったけどこの辺りでは結構名前が知られている。
 制服の上着を脱いだYシャツ姿の兄貴はレギュラー5人をゴボウ抜きにし、両足を揃えて大ジャンプ、ゴールにボールを叩き付けた。
「「「きゃああ〜〜っ! 御剣く〜〜んっ!」」」
 ダンクが決まると女子生徒達の歓声が響いたけど、私だけはため息を零して片手で顔を隠した。
 ちなみに兄貴が名乗っている『御剣』と言うのは母方の姓で、海外出張している伯母さんも御剣だ。
「あのバカ……」
 セイヴァー・エージェントだって事は自分から秘密だって言ってたくせに……
 
 兄貴は制服の上着を持って体育館を出た。帰る前にバスケ部から勧誘があったが『アルバイトが忙しい』と言って断った。
「ふんふんふ〜ん」
 まるで酔っ払いのように肩に制服の上着を掛け、左手でカバンをぶら下げながら鼻歌を歌いながら校門を出た。
「ちょっと兄さん!」
 私も校門を出て兄貴を止めた。
「ん、おお、舞か。一緒に帰るか?」
 まるで一昔前の恋愛ゲームの主人公みたいに言ってくる、だけどそんなんじゃない!
「舞かじゃないわよ、アンタあんなに目立ってどうするのよ?」
 私は一緒に帰りながら体育館の事を訪ねた。
「あれか? 良いんだよ、目立つ時に目立って置けば意外とバレないもんなんだよ」
「だからってキャーキャー騒がれる必要ないんじゃないの? 調子に乗って痛い目みたって私知らないからね」
「ん?」
「な、何よ?」
 兄貴は私の顔を見てきた。ジッと数秒見つめると突然目を細めて口の両端を上にあげた。
「もしかしてヤキモチか?」
「なっ?」
 何言ってんのこのバカは?
 すると兄貴はいきなり私を引き寄せて抱きついた。
「ったく、素直に言えば良いだろ、この寂しがりやめ〜」
「いっ、いやああぁ〜っ!」
 私は兄貴を引き剥がすと顔面に拳を入れた。
「ヘブシッ!」
 兄貴はそのまま吹き飛んで電柱にめり込んだ。
「この変態! 一回死んじゃえバカっ!」
「……もう死んでるって」
 そうだった。兄貴は確かに一回死んでる。バカは死ななきゃ直らないって言うけどあれは嘘だと先人にクレームつけてやりたい。
『タクミ、仕事だ』
 首から下げていたギルの言葉に今までチャラ付いていた顔がいきなり真面目になった。
「どうしたの?」
「悪り、仕事入った」
「えっ、また宇宙人?」
「おい…… 宇宙人っての差別用語だぞ」
「えっ、そうなの?」
「地球だって同じ宇宙にあるんだから地球人だって立派な宇宙人だ。生まれた星や体の構成物質、姿形が違えど立派な人間だ」
 宇宙では共通して知的生命体は全て『人間』だと言う、その星によって呼び方や名称は違うみたいだけど……
「じゃあ俺行くわ、じゃあ明日な」
「……あ、うん」
 兄貴は私に手を振り背を向けて去って行った。
 
 空が暗くなり時計は10時を回る、
「はぁ……」
 勉強をしていたのだが私は机の上のノートにシャーペンを転がした。ちっとも集中できなかった。
「兄貴……」
 私は立ち上がって窓の外を見る、
 この星空の下で兄貴は人知れず異星人と戦っている、みんなを守る為に……
「……兄貴、覚えてたんだ」
 実は今週の始めに買い物に付き合って欲しいと頼んだのだ。