ＳＡⅤＩＯＲ・ＡＧＥＮＴ
私の心に穴が開いたようだった。
考えてみれば自分から友達を作ろうとしたのは今回が初めてだったかもしれない、だけど実際は上手くいかなかった。
「はぁ……」
私はため息を吐きながら昇降口へ向かっていた。
保健室の前を通った時、丁度扉が開いて里中先生が出て来た。
「あら、妹さん」
「里中先生……」
「どうかしたの？ 元気ないみたいだけど」
「そ、そうですか？」
「これでも保険医よ、顔色の違いぐらい見分けられるわ。悩み事なら相談に乗るわよ」
「でも、先生忙しいんじゃ？ 今地球は忙しいって……」
「少しくらいなら大丈夫よ、生徒１人の悩みくらい聞く時間はあるわ」
里中先生は微笑した。
私は保健室に招かれた。
そして塩田さんとの事を話した。
「そうだったの、そんな事がね」
「私…… 塩田さんに少し周りを見て欲しかっただけなんです、それなのに……」
「そうね、彼女は少し視野が狭かったのかもね…… ストレートに言うんじゃなくて少し遠まわしに言うべきだったのかもしれないわね」
「先生は…… 正義ってどう思いますか？」
私は訪ねてみる。
すると里中先生は目を閉じて眉を細めながら息を吐いた。
「……難しい質問ね、妹さんはどう思う？」
「分かりません、だけど…… でも塩田さんが言う正義って、間違ってる気がするんです」
私は正義は人の為にあるべきだと思ってる。
自分達が正義だ正義だって言って口論から始まり最終的には戦争にまで発展する、そんな事は歴史が証明している。
生徒の為と言うなら生徒会の私だって同じだ。
生徒会・庶務として私なりに生徒達の学校生活の為に出来る限りの事をして来たつもりだ。
それは水城先輩や他の生徒会のメンバーも同じだった。
今まで勉強しか取り柄が無く、人と接する事が無かった私は今では（多少兄貴の影響もあるとは言え）クラスの生徒達と普通に話ができるようになった。
だけど私や生徒会の悪い噂は聞いてない、三葉さんの苦情なら良く来るけど……
「妹さん、以前異星人とのコミュニケーションは非常に難しいって言ったけど、それは自分の星の人間とも難しいのかもね…… 所詮は他人なんだし」
「私、どうしたらいいですか？」
私は尋ねる。
兄貴以外の人間で悩んだのはこれが初めてだ。本当にどうすればいいのか分からなかった。
「そっか、妹さんは考えてから動くタイプだもんね、慣れてないか……」
里中先生は息を吐く。
そして一間置くと言って来た。
「確かに人は生きて行くなかで決まりや法は必要な物よ、だけどそれが逆に人を傷つける諸刃の剣となるわ…… だけどそう言った事はゆっくりと時間をかけて行く事なんじゃないかしら？」
「はぁ……」
「大体何が正しくて間違いだなんて、本当は誰にも分からないのよ、だけどこちらから出向く事は出来る、その先に光が待つか闇が待つかは自分次第なんじゃない？」
里中先生は優しく言ってくれた。
不思議だった。
何だか話してるだけで私の曇っていた心が晴れて行った。
「先生、私…… 塩田さんともう一度話して見ます」
「ええ、だけど決して成功する訳じゃないわよ、それでもいいの？」
「はい」
私は頷いた。
そして一礼して保健室から去った。
その頃……
「待ちやがれ――っ！」
オレは今オメガの工作員を追いかけていた。
見た目は蛙のような顔に尖った耳、額から蛾の触角の様な物が生え、首から下が黒いジャケットと黒いロングズボンのトモスード星人だった。
他の部署の連中と一緒にオメガのアジトに殴りこんだオレ達は工作員と交戦になった。
たちまち工作員達の大部分はゼルベリオスに転送されて行ったのだが、数人はその場から逃走した。
その逃走していた１人をオレは追いかけていた。
ビルからビルへと飛び移り、オレは少しづつだが距離を縮めて行った。
『このっ！ しつけぇ野郎だ！』
トモスード星人はオレを見て言って来た。
「じゃあとっとと捕まりやがれっ！」
オレは一気に間合いを詰めると着地の瞬間を狙ってセイヴァー・アームズを振りおろした。
『チッ！』
しかし相手の方が素早く横に跳んで交わすとビルから飛び落りた。
オレもビルから飛び降りて裏路地に跳び下りた。
丁度行き止まりで奴を追い詰めた。
「どうやら鬼ごっこもお終いだな」
オレはセイヴァー・アームズの切っ先を向けた。
『チッ…… ムッ？』
奴が何かに気づいて後ろを振り向くとそこには１人の女子高生がいた。
オレの学校の女子の制服、しかもあの子だった。
「……えっ？ ええっ？」
その子は壁に身を隠しながら困惑していた。
『隙ありっ！』
トスモード星人は懐からナイフを取り出すとオレに向かって襲いかかった。
「くっ！」
オレは間一髪交わして身を翻し、足首を捻って相手の背中を斬り裂いた。
『ギャアアッ！』
トモスード星人は光の粒子となって消滅した。
「………」
一件落着…… な訳がない。
オレはまだ状況が把握できてない塩田ちゃんを見る。
セイヴァー・エージェントの協力者意外の人間に秘密を知られた場合、記憶を消さなきゃならない。
だがオレはその事を忘れていた、何しろその事を忘れていた。
「タクミ―っ！」
しかも最悪な事がまた続いた。
ファーラン達がやって来た。
「こっち終わった…… ああっ？」
「………」
「おいおい……」
ファーランは口を塞いで顔を顰め。
バイスは眉間に皺を寄せ。
サイモンはため息を零した。
みんなオレと同じ反応だった。
作品名：ＳＡⅤＩＯＲ・ＡＧＥＮＴ 作家名：kazuyuki