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夜になってから蝶は舞う-DIS:CORD+R面-

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その箱は開かれる


「激烈にラッキー」
透き通るような声が湖の畔に響く。
ラッキー?なんだ?なにがだ?

これはリヴァーダが発した言葉だ。
人類種特務部隊は全員が構える。
草むらから立ち上がり対象となる者を。
正直その目で実際にリヴァーダを見るのは初めてだった。
リリィも。部隊のメンバーも。思っていたよりも美しく、また妖艶でもある。
魅了される者の気持ちも幾分か理解できる。

「自らユリカゴになりに来てくれるなんて凄まじく感謝しないとね。しかも一番ランクの高いヒトとはね」
一瞬照らされた顔は笑っている。とても優しい満面の笑顔。
吸い込まれそうになっている自分に気づきリリィはこの相対するリヴァーダの言葉を反芻した。

ユリカゴ・・・そうか。リヴァーダは自身らの卵を産みつける死体をユリカゴと呼ぶ。
つまり部隊全員をすでに死体としか見ていないということ・・・。
思わず魅入った自分が恥ずかしくなる。
戦慄。背筋に悪寒。動きたい。でも動けない。張りつめた2秒。


「撃てぇっっ!」
離れたところでリリィ隊とは別の隊の長が叫ぶ。直後銃声の嵐。
まるでそこら中でバクチクでも鳴らしてるように火花が見える。チカチカと綺麗だ。
チラリと湖面に目をやるリリィ。まだか?しかしもう引き揚げたところで作戦の成功という目は薄い。
引き揚げても、持ち帰らなければ意味がない。
完全な負け戦じゃないか・・・。悲しくなるような悔しくなるような刹那。

「まったく・・・相変わらず無礼な種だね、ヒトはぁ。
普通攻撃する時は名乗ってからでしょうがー。教育がなってない!」

リリィ隊の中央にまで歩みを進めるリヴァーダ。
しかし向こうの銃撃は違うところに放たれている。複数いるってことか。
それならコレは自分達の隊が請け負うしかない。リリィは覚悟を決める。

「・・・り、リリィ・リー・リアナだ。この第三部隊を任されている。これよりお前を迎撃する!総員撃て!」
名乗ってからの命令。自分自身どうしてそうしたのかわかっていない。
リヴァーダが戦闘態勢に入る時、自らを名乗ることは軍の中では有名だ。
騎士道だか武士道だか、そんな精神に基づいてるのか、ただの慣習か。
とにかく名乗ればそれは戦闘を意味する。

「・・・リ?リリ?え?ごめん、あっちの音で聞き取れなかった、もっかいいい?てか『リ』多くない?」

拍子抜けする程の返答。
すでに全員が銃を撃ちまくってはいるがどれも当たっていない。リヴァーダに弾は当たらない。
圧倒的な動体視力とそして驚異的な嗅覚と、異常な触角で空気の微々たる変化を感じ取り読み切る。
そしてその読みを化け物じみた身体能力で現実に変える。つまりよける。
これだけの人数で撃ち抜こうともよけ切る。
本来ならそれを見越してこちらも撃ち方を綿密に計算しなければならない。
1万発よけられても最後の1発を当てる。それぐらいじゃないとこんな攻撃は無意味だ。
足下を狙いそれと同時に上部も狙う。そして次に左右を狙ってリヴァーダの動く範囲を絞り狭めて行く。
最終的に動く隙間がひとつしかないところまで追い込まないといけない。

「まあいいや。アタシはぁリミヤ。よろしくねー」
リヴァーダの雌。オンナか。しなやかに舞い踊り弾をかいくぐり笑う。

「あっあっち終わったんかなー」
リミヤと名乗ったリヴァーダが羽を揺らしながら別部隊の方に目をやった。
確かに銃声は聞こえない。静かだ。
草が揺れるシルエットだけが見て取れる。

「ぬ!?ぬー?あああああああっなにやってんのぉ!ロッチャぁぁぁ!!なに全部粉々にしてんのぉぉ!」
リミヤが驚きの声を上げた。隙をついて前進するリリィ。撃つ。撃つ。撃つ。とにかく撃つ。
かすめた。右肩。少し血が滲む白い肌。
それすらも美しく感じてしまい首をとっさに横に振る。


月を雲が覆い始めた。闇が闇へ還った。微かな息づかい。地面に這いつくばりチャンスを伺う狙撃隊。
そう、彼らが最終的な1発の弾丸を喰らわせる。できるだけ呼吸を止めて音も出さずに潜むんだ。

「ちょっとちょっとー!ロッチャ・・・マッジでえ?あり得ないってばぁ!せっかくのユリカゴを使い物にならなくするってこれ何?」
「・・・んーああ、しょうがないじゃないですか。僕、この音嫌いなんですよ、この銃の音?頭痛くなるから一気に粉砕しました。
そしたらまあこうなって。柔いんですよね、ヒトって。」
霞む月明かりを舐め回すように眺めるリヴァーダ。ロッチャ、という名か。

その時、湖面から光。合図。成功か。引き揚げた。


直後頭上に火花が飛ぶ。目を覆いたくなる光。迫る熱。
爆音が轟き地面が揺れた。いや、揺れるどころか吹き飛び身体中に泥がかぶさりまとわりつく。
転がる。口の中が苦い。擦り切れるような痛みを感じながらどこまでも転がり続けるリリィ。
もはや身体の制御はきかない。風に吹かれる小さな綿のようになすがままだ。
黒煙が横目に見えた。何事だ?

何が起きたんだ!?

パラパラとまだ砂埃はそこら中に舞っている。

轟音は消え去り静寂が訪れようとしている。いくつか聞こえるうめき声を除いて。

リリィは顔の上にかかる泥を手で払いのけ目を開けた。二つの月が雲から出てきている。
仰向けか。自分がどんな体勢で横たわっているのかさえ定かじゃなかった。

脚に痛みは走ったが、立てることを感じそのまま立ち上がる。
よく見ると深い穴の中に落ちているような感覚。
さっきまでは無かった土の斜面が目の前に大きく広がっている。

「な、なんだ・・・」

立ち上がってその光景を目にしたところで何が起きたのか把握できない。
ただ、爆発した。ということはわかる。沿岸部をえぐるように大穴を開ける程の爆発。
攻撃?誰の?まさかリヴァーダにはこんな能力まであるのか?とふと頭をよぎった時、
その足下にはそのリヴァーダのリミヤが横たわっていた。

「ぐっ・・・つっ・・・なっ・・・」

同様に呻く。リミヤも転がっている?ということはリヴァーダの能力ではなく攻撃でもない!?
それに・・・あの恐るべき化け物リヴァーダが倒れている。これはなかなかに貴重な光景だ。そうそう目にできない。
しかしそれを焼き付けておこうなどという余裕はリリィにはなかった。

「うおぉおおおおおおおおおおおおおっ!」
怒号。そして駆けて行く姿。羽が煌めく。所々に傷つき穴の開いたボロボロの羽。
もう一人のリヴァーダ、ロッチャ。
速い。しかし両足から走る度に血が噴き出している。それでもリリィの今まで見たどの人間よりも速かった。


ロッチャが向かう先。それは湖面に浮かぶ船。『背徳者』の『石棺』を引き揚げている部隊の船だ。
石棺は堂々と船上にあった。ひさしぶりに地上へと姿を現した石棺は沈められた時と同様の状態のままだった。
若干泥がついているぐらいでとても美しい石が雫を垂れながら鈍く光っていた。

ロッチャはジャンプする。同時に羽ばたいて。
よろめきながらも弧を描き船上へと。その途中、空中で銃弾の集中砲火を浴びる。
リヴァーダは飛べると言っても10や20メートル程舞い上がれるぐらいだ。飛行能力はない。