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夜になってから蝶は舞う-DIS:CORD+R面-

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二つの月は優しく輝く


二つある月に照らされた不穏な人影が蠢く。
静かな湖の水面にその月が映り込む。

「危険じゃないんですか?そんな・・・
あのリヴァーダからも『背徳者』とか呼ばれてる者をわざわざ引き上げるなんて・・・」
「私もそう思います。引き上げて相対するわけですよね?リヴァーダですよ、相手は。しかも・・・」
潜む影から漏れる不安げな声。
人類種の腰ぐらいの高さの草が生い茂る湖畔。その草むらにしゃがみ込み身を潜めている。

「お前達の言いたい事は充分わかる。なにせ奴はリヴァーダにあって大罪を犯した奴だ。
しかも・・・36・・・36人も同族殺しを行った。
私達にとっては一人仕留めるのに相当の人員と兵器と・・・そして計画を練らないと不可能なリヴァーダ相手を、だ。
私達に抑える術は皆無かも知れない。しかし、安心しろ。それは奴が万全であればの話だ。
奴は今、拘束され沈められている。
リヴァーダの中でも王族でなければ解けない枷をつけられて。つまり奴は何もできない」

安心させようとこの作戦の指揮を務める隊長格のリリィ・リー・リアナが聞いただけの話をする。
彼ら彼女ら人類種にも伝えられている話。
リヴァーダの同族殺し事件。
しかしなんせ50年前の話だ。
ここに潜む特殊任務を請け負った部隊の全員が生まれるずいぶん前の話。
ただただ現実味のない恐怖だけが膨れ上がっていく。

50年前、36人の同族リヴァーダを葬りその大罪により枷をつけられこの湖に沈められたリヴァーダの背徳者。
彼ら彼女ら人類種からすればそのこと自体も恐ろしいがこの生物の棲まない湖に
沈められ50年も生存しているという話がさらに恐れを煽る。
どんな生き物だよ、それ・・・と半ば夢の中の話に聞こえる。

『石棺』と呼ばれる人が一人入れる程度の箱に入れられ沈んでいるわけだけど
その状態で生きられるなんて人類種にとってはあり得ない。
すぐに飢餓が訪れ呼吸困難に襲われる。
いや、それ以前に湖の底に自らの肉体がある、といういい知れぬ恐怖が全身を蝕み精神は崩壊するだろう。
それに耐えうる魂の強さ。

ゴクリと唾を飲み込むリリィ。
まだ22歳という若さ。しかしその類い稀な能力をかわれ一部隊の体隊長を任される女性兵士だ。
まあもっともその能力もリヴァーダを前にすればたいしたものではいんだけど。

湖の方が微かに光る。人工的な光だ。つまりは合図。
湖面に浮かぶ引き揚げ部隊の準備が整った。
沈む背徳者が入る石棺を見つけその箱に鎖を繋ぐ。
ダイバーが浮かび上がりOKサイン。
いよいよ始まる。

リリィの隊はそれを沿岸から援護・支援する役割だ。
とは言え沿岸から出来ることなど特にない。
それはリヴァーダに感づかれこの場所に現れた時に足止めをするためのいわば盾。
だが部隊全員が知っている。理解している。そして全身で感じている。
それはほんの数分の足止めでありその僅かな時間のためにここいる全員の命を懸けなければいけないことを。

一騎当千。
まさに人類種とリヴァーダ族のチカラの差はその言葉に当てはまる。
一人のリヴァーダは人類種千人のチカラに相当すると言われている。
実際に目にしたことはないが常々そう教えられてきたからにはそうなのだろうとリリィも思っている。

今リリィの隊や他の同任務の部隊全員をいくら数え直してもせいぜい100人程度だ。
恐ろし過ぎてため息を深くつくリリィ。
願わくば滞りなく引き揚げてリヴァーダも現れないことを。
リヴァーダの眠りがこれまた驚異的に深いことを祈る。

「しかし・・・そんな『背徳者』を引き揚げてどうしようって言うんでしょうね・・・」
リリィの横で銃を構えて辺りを伺う青年が口にした。
確かに。その通りだ。

「さあ。そんなことは聞かされてないし、聞かされてないということは任務には関係ないということだ。
余計なことを考えずに集中しろ」
男勝りのリリィ。しかし虚勢。リリィの中にも疑問はあるが考えないようにしてるだけ。

「だ、だって・・・先の戦争でもリヴァーダは大暴れして・・・国1個潰してるんですよ・・・マジやばいっすよ・・・」
月明かりに照らされた青年の顔色は悪い。

先の戦争のことも人類種であれば誰でも知っている。
リヴァーダの美しい羽に魅せられたマルディアナ皇国の第三だか第二だかの皇子がリヴァーダの隙をついてまだ生まれたて程の
若いリヴァーダ族の1人を捕獲した。
羽をむしり取り得意げに王宮に飾る。

その次の日にはリヴァーダ女王陛下自らが宣戦を布告。
その時に使った言葉も全人類種が記憶している。無慈悲、無節操、無配慮・・・

マルディアナ皇国は謝罪と賠償を行うことを声明したが一度憤怒したリヴァーダの耳には入らない。
なんせ無慈悲、無節操、無配慮・・・。その言葉に噓偽りは一切なく1週間程度で国は蹂躙され尽くし不毛の地となった。
死体の輸出入禁止がすでに施行されていたリヴァーダにとって多くのソレを手に入れる機会であったにも関わらず
すべてを焼き尽くしてしまう程の怒りと憎悪と、そしてあからさまなチカラの差を見せつけた戦争。

地図からマルディアナ皇国は削除された。
それからだ。
人類種が本格的にリヴァーダのチカラを弱体化させようと動き出したのは。
人類国家連邦が成立したのもそれから。

そんな危険なリヴァーダ。そのリヴァーダさえ敵に回し忌まわしき枷をつけられる背徳者。
リヴァーダにとって大罪を犯している者を目的や方法はどうあれその牢獄をこじ開け解放しようとしているんだ。
完全な問題行動。


と、銃声。不規則なドラムロールのように闇夜に響く。
近くで白い鳥がバサバサと羽ばたく音。

ゆっくりと、まるでスローモーションのように舞い降りる黒い影。しかし羽が月明かりを反射させ一瞬七色に輝いた。
来た。とうとう。やはり。願いは通じなかった。
リヴァーダ族の登場。
作戦は完了していない。つまり・・・やるしかない。