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愛憎渦巻く世界にて

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 教会内は、虚しさと悲しさで満ちていた。すすり泣きの声、お祈りをブツブツと唱える声、怒りのこもった叫び声が、あちこちから聞こえる。
 告解室には行列ができていた。最後部を示す札は立っていないが、けっこう長い行列だ。聞き役の神父は、間違いなく激務だろう……。
「慎重についてこい。何も話すなよ」
ゲルマニアはそう言うと、告解室のほうへ向かう。めんどくさくなったのか、変装はほとんど解けてしまっている。長い金髪が揺れる。

「おい、あれはゲルマニア様じゃないか?」
「なぜここに?」
「生きておられた!」
慎重に歩いていたものの、ゲルマニアの存在は、すぐ教会内に知られた。彼女は存在感があるし、目立つのだ。
 そんな声をよそに、彼女は歩き続け、告解室の前についた。
「ゲルマニア様、お先にどうぞ」
「すまないな、ありがとう」
行列の先頭にいた中年女性が、彼女に順番を譲った。
「失礼する」
先客がいるにも関わらず、彼女は告解室のドアを堂々と開けた。中にいた男がぎょっとした顔をしている。
「ゲ、ゲルマニア様!?」
「すまないが、急用でな」
男は目を丸くしながら、告解室から出て行った。その際に危うく、シャルルたちにぶつかりかけた。
「これはこれは、ゲルマニア様。今日は怪我人を連れておいでですかな? あそこはもう満員ですよ」
告解室にいた神父が言った。
「いや、神父様。この者たちは怪我人ではありません。私の仲間です」
ゲルマニアはそう言うと、告解室のイスの前に立つ。
「あそこの通路をまた使わせてもらうぞ」
この通路とは、王城の拷問室へ出る、秘密の通路の事だ。
「それは構いませんが、その前に、私の話を聞いていただけませんか?」
神父が頼んだ。ゲルマニアはうなずくと、シャルルたちに告解室へ入るように言った。
 シャルルたちも告解室に入り、ドアを閉めた。告解室内は狭いので、生き苦しいし暑苦しかった。一同は、神父の話が早く終わる事を、神に願う……。

「我らが国王、つまりあなたの父上は、乱心しておられます」
神父が言った。外にいる人々に聞こえないように、小声でだ。
「気に喰わない助言をしたとかで、3人の大臣が処刑されました。つい最近の話では、王妃様が暴力を振るわれたとか」
「……そうか。先の戦に敗北した上に、次期国王だった兄上が死亡したからだろうな」
ゲルマニアはそう言った。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん