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愛憎渦巻く世界にて

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「あちら側は、謁見室やダイニングルームがある棟です。今は遠回りをしていただいておりますが、本来あったこの通路を通れば、すぐに食事を取ることができます」
フィリップがブリタニアに説明していた。彼はすっかり観光ガイドと化している。
「これぐらいなら飛び越えられるわ!」
大口を叩く彼女は、裂けた通路の先に堂々と立ってから言った。そして、彼女は助走するため、通路の先から離れる。
 先日の首都攻撃による破壊で、この通路は屋根から床まで完全に分断されてしまっている。上から見下ろすと、土台の石材が見えてしまうほどの壊れ具合だ。その土台からここまでの高さは、20メートルぐらいあるため、落下したら無傷では済まない。いくら気が強い彼女でも、そこまで体は強くないのだ。
「はははっ! それはすごいですね!」
フィリップは、ブリタニアが洒落た冗談(おとしやかなものではないが。)を言ったのだと思い、社交辞令として笑ってみせた。
 だが、彼女が躊躇いもなく助走を始めたのを見て、冗談ではなかったことをようやく把握する。まさか、彼女がここまで気品を持ち合わせていない姫だと、彼自身は思っていなかったらしい……。
「お、おやめください!」
フィリップは、助走中のブリタニアが自分の真横に来たときに、両手で彼女の上半身を思い切り掴んだ。とっさの行動だった事もあり、力任せで変な掴み方をしてしまう。そのせいで、彼女が着ている服(子供用だがドレスには違いない。)が、嫌な悲鳴を小さくあげた……。
 突然体を掴まれ、大ジャンプを制止させられた事に対して、ブリタニアは怒る前に、軽い懐かしさを心に感じた。
 無邪気な彼女は、生まれたときから常に誰かによって、しっかり保護されてきた。本国であるタカミ帝国にいた頃は、執事やメイドたちによって。本国からここまでの船旅や道中は、シャルルとウィリアムたちや、ビクトリーら兵士たちによってだ。そして今は、ムチュー王国の人々によって、彼女は保護されているというわけだ。もちろん、その人々の中にはフィリップも含まれる。

 ブリタニアは、懐かしさなどの心情を脇に置き、嫌な悲鳴をあげた自身の服を見回す。
「あっ!」
フィリップに掴まれた部分に一番近い縫い目が、少し破れてしまった……。ちぎれた糸の両端が、びよんと情けなく飛び出ている。これは厄介な面倒事だ……。
「こ、これは失礼をいたしました!」
彼はすぐに頭を下げて謝る。誰が見てもわかるほど必死にだ。

「ひ、酷い! どうしてくれるのよ!?」
高い声をあげながら、ブリタニアはフィリップに詰め寄る。
「えっと……」
怒りに震えるブリタニアと、その強烈な震えに狼狽えるフィリップ。彼は、周囲の誰かに助けを求めたかったが、その場には自分たちしかいない。ここは彼のコミュ力が試される場面だ。なんとかして、激怒するブリタニアをなだめ、この場を落ち着きのある優雅なものにしなければいけない。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん