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愛憎渦巻く世界にて

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「皇帝陛下が心配されますよ!」

 ボリュームをいくらか絞った声で、ビクトリーが言ってきた。
「大丈夫だ、船長! 父上も母上も、突然の旅立ちはもう経験済みだ!」
いきなり旅立ったウィリアムは、自分自身を指差しながら言った。隣のメアリーが、小さくため息をついた。どうやら、いきなりの旅立ちでの苦労を思い出しているようだ……。
「ハリアーから散々聞かされたでしょうが、危険ですよ!」
ビクトリーは、まだ少し躊躇していた。あと少しだ。
「蛮族を相手に立ち回るよりも? 今さら、危険だとかリスクがどうとかなど、どうでもいい!」
ウィリアムは、何が起きても動じないという強く気迫のある態度であった。そのときのウィリアムは、現皇帝の若いころと瓜二つだと、執事がこの場にいたら言うことだろう……。シャルルやマリアンヌにも負けない強い気持ちが、ウィリアムから発せられていた。

「わかりました、ウィリアム殿下。そこまでおっしゃられるのであれば、乗船いや密航をしていただいてけっこうです」
ウィリアムの気迫ある態度と言葉にとどめをさされたビクトリーは、シャルルたちの密航を許可した。そのときのビクトリーの口調は、今までとは打って変わった落ち着いた口調であった。
 シャルルたちは、バカみたいに飛び上がって喜ぶような真似はせずに、静かにビクトリーに礼を言う。
「これほど勇気のある方々に礼を言われるとはね」
ビクトリーは恥ずかしそうに笑っていたが、思わず感動してしまったことを隠すためのようだ。感動の涙をこぼしているのかもしれない。


 これから密航するシャルルたちは、それからすぐにネルソン号に乗せられた。幸いなことに、事情を察した船員たちは何も言わずに、このあいだと同じように接してくれた。
 荷物の積み込みがまだ終わっておらず、まだ出港はしない。もし、ハリアーや手先が、船にやってきたら連れ戻されてしまう……。
「ようし、あそこに隠してやるか!」
ゲルマニアにビールをすすめたあのおっさん船員が、張りきった様子でシャルルたちを誘導する。

 シャルルたちは、おっさん船員に連れられ、船のキッチンにきた。炊事係が積み込まれたばかりの食料を仕分けしていた。おっさん船員は、炊事係に目配せすると、棚と棚との間の壁を強く押した。
 すると、その一部分の壁だけが跳ね上げ式になっており、壁の中に2メートル四方ほどの隠し部屋があった……。
「少し狭いが、ここに隠れていな」
おっさん船員がそう言うと、シャルルたちは隠し部屋に恐る恐る入る。最後にゲルマニアが入ると、おっさん船員は跳ね上げ式の壁を閉じた。暗闇がシャルルたちを包み込んだが、身を寄せ合っているため落ち着いた様子を見せていた。
「酒臭いな」
どうやら、その隠し部屋は、酒の密造のために使われているようだ。部屋の隅に空の酒ビンが転がっており、気化したアルコールの匂いが、狭い隠し部屋にたちこめていた。
 だが、ぜいたくは言えないので、シャルルたちはそれ以上文句を垂れることは無かった……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん