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愛憎渦巻く世界にて

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 騎士は、キャンプファイアーのように燃えているたき火のすぐ近くにある岩の上に、無理やり乗せられた。次に足をつくのは、たき火の中だろう。蛮族は下品な歓声をあげ、老婆はニヤニヤしている……。
「やめてくれーーー!!!」
騎士は泣き叫び、必死に暴れたが、男たちにしっかりと掴まれているので、あまり効果が無かった。マリアンヌは目を背けて泣いており、シャルルは悔しそうな表情をしていた。

「泣き叫ぶな!!!」

そう叫んだのはゲルマニアだ。彼女のすぐ横にいるクルップは、「こんなときまで厳しい人だな」という表情で彼女を見たが、彼のそんな表情はすぐに驚きの表情に変わった。
 ゲルマニアは泣いていたのだ……。泣いていたといっても、今泣いているマリアンヌのように、恥も外聞も無くという泣き方ではない。真剣な怒り顔を涙が静かに流れているという泣き方だ……。泣き顔からも、ゲルマニアには威厳が感じられた。
「…………」
その威厳は、処刑寸前である騎士にも伝わり、騎士は泣き叫ぶのを即座にやめ、ただ落ち着いていた。蛮族は、不思議そうにその光景を見ていたが、
「シァイョィワンチャン!!!」
老婆の殺気だった一声で、すぐ元に戻った。

 騎士は次の瞬間、盛大に燃え上がっているたき火の中へ、勢いよく押し倒された……。その瞬間を、ゲルマニアの目はスローモーションのように見た。
「…………」
騎士は、必死に叫び声を押し殺していた……。ゲルマニアは、悔しそうに泣きながら、黙ってそれを見届けている。
 シャルルも、ただ見届けるしかなかったのだが、同時に、どうやって逃げ出すべきかを考え始めた。ヨソモノを排除しようと殺気だっている老婆の群集の様子から、少なくとも、これで終わりにしてくれはしないだろう……。彼は、左隣りにいるメアリーとその隣りにいるウィリアムを見た。
 なぜか2人とも落ち着いた様子で、2人とも死の覚悟をしてしまっているのではないかと思い、彼は慌てふためきそうになった。しかし、彼の視線に気づいたウィリアムとメアリーがウィンクをしてきたので、慌てふためくことは避けられた。ウィリアムとメアリーに、何か打つ手があるのだろう。
{どうするんだろうか?}
彼は、ウィリアムとメアリーの様子を横目で観察し始めた。するとすぐに、ウィリアムとメアリーが、何をしているかがわかった。
 ウィリアムとメアリーは、蛮族にバレないように、器用かつ慎重に縄を切っているところであった。ウィリアムが使っているのは、自分が使っている矢の矢じりだけの部分で、メアリーが使っているのは、どこかに隠し持っていた小型ナイフであった。彼らは、内側から縄を切っており、外側から見えないようにしていた。彼らの後ろにもいる見張りの目には、縄が少しずつ切られていっているようには見えない。


 それから少しして、たき火の中から、騎士の焼死体が引き出された……。騎士の焼死体は、着ていた鎧の中で黒コゲになっており、ところどころコゲている鎧のすき間からは黒い煙が出ている。肉や毛が燃える嫌なニオイが漂い始め、シャルルたちの鼻まで届くと、マリアンヌはすぐにオエッとなっていた……。
「キクヌセムカラノー!?」
「ヌウカセヨムワンチャン!!!」
なぜか蛮族は、今の処刑に不満の声をあげていた……。焼き方に不満があるというのだろうか?
 どうやら、騎士が無言のまま静かに死んでいったことが気に食わないようだ……。彼らが期待していたのは、島中に響き渡るほどの絶叫や、陸でのたうち回る魚のような苦しみようだった……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん