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修学旅行

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はじめてのテーマパーク



 その国ではみんなが鼠になっていた。黒い大きな耳をつけて。

   『はじめての』

 高校一年生、晩春。変わったばかりのクラスで臨む修学旅行は何となくそわそわしたのを覚えている。
 その国に行くと皆が皆おかしな魔法にかけられてしまうらしかった。なんでも、その魔法にかかると正常な金銭感覚が無くなり、知らぬ間に財布の中身が空っぽになっているというのだ。
 はじめての入国だった。
 「かわいい」
 赤い水玉リボンと大きな黒い耳が付いたカチューシャ。
 「いいにおい」
 粉砂糖まみれの揚げ菓子とキャラメル味のポップコーン。
 「おばあちゃん家、家族、いとこ、自分」
 チョコレートの缶詰、四缶。
 気がつくと頭も財布も空っぽだった。担任教師から借りた帰りの交通費。
 はじめての借金だった。


 あれから時は過ぎ、私は今東京の大学に通っている。
 あのあと、あの国には何回か足を運んだ。今は隣にできた海にもちょくちょく遊びに行く。あの恥ずかしく虚しい出来事は今ではすっかり笑い話になっている。ただあの日の夜、ホテルに帰った後。友達が私の買ったカチューシャをまじまじと眺めて言った言葉がずっと忘れられない。
「鼠って、鼠の耳って、黒かったっけ」
そもそも鼠ってなに色だ?
 答えはいつでもすぐそばにある。この間、バイト先の居酒屋で彼の親戚に会ったのだ。かなりでぶっとしたその体をゴミ箱の隅に押しつけながら、彼はもぞもぞと動いていた。
 結論。
 「鼠は黒くない」
 ゴミ袋を抱えたまま、奥へ奥へと逃げ込む影を見つめ私は思った。
 早くあの娘に伝えよう。
 私はまだ質問に答えていない。ゴミ袋の底から雫が落ちた。


その日の夕方、実家から制服が送られてきたものだから。

作品名:修学旅行 作家名:o.chi