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修学旅行

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はじめての築地市場



 死んだ魚がごろごろと。だけどちっとも悲しくない。ここはとても賑やかだ。

   『ガラス玉の眼』

 中学三年生、夏。私たちの目の前を丸々とした鮪が滑っていった。
 「おおおすっげぇええ」
 男子が騒ぐ。鮪が滑る。

 しゃあああ
 おおぉぉぉ

 女子たちは足下に広がる魚の血だまりにいやーとか、きゃーとか。

 「見て見て」

 引っ張られる制服の裾。友人は転がる鮪の眼を覗き込んでいた。黒く大きな瞳が私のそれとかち合う。

 「ビー玉みたい」

 ぷっくり膨らんだつるつるの眼が、私の瞳を捉えてなかなか離してくれなかった。


 あれから時は過ぎ、私は今東京の大学に通っている。今日の夕飯は築地市場の金目鯛。大きく丸い眼がとても羨ましい。

 赤い鱗が剥がれていく。
 お腹に詰まったものを取り、
 現れる透き通ったピンクいろ。

 まな板の上転げたその姿、どこかで見たことあるような。うーん、何だろう、どっかでお会いしませんでしたかって、私はその瞳を覗き込む。

 「ビー玉みたい」

 ぷっくり膨らんだつるつるの眼が、私の瞳を捉えてなかなか離してくれていない。黒くて大きな瞳が自分のそれとかち合ったまま。

 その日から思い始めたこと。
 まだ続いているのかもしれない。

 私の修学旅行はまだ。

 その日の夕方、実家から制服が送られてきたものだから。

作品名:修学旅行 作家名:o.chi