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幽霊屋敷の少年は霞んで消えて

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そういうと、かすみちゃんはクルリと優雅に回って見せてから、再びあの妖艶な笑みを浮かべて、わたしを見た。
「おじさん、良い?アタシはね、かすみの体を借りてるけれどかすみじゃないの。ウッフフわかる?」
そういって、かすみちゃんはコレまた色っぽい動作でわたしの頬を撫でる。
……、この状況どうすれば良いんだよ。
先に断っておくけど、わたしオカマはNGだよ?
そんなわたしの思考なんて、お構いなしにかすみちゃんはそのままグッと顔を近づけてくる。
さらにかすみちゃんがわたしの顔の後ろに手をまわして、グッと押した。
どんどん二人の顔が近くなる。
「アタシの名前はレイカ。……よく覚えておいてね。おじさんアタシのタイプなんだもん」
そういって、かすみちゃん……いや、レイカちゃんは唇をギュッと突き出した。
あぁ、やばいやばい、このままじゃ本当にやばい!
そりゃ、ファーストキスってわけじゃないけどね、イヤだよこんなキス!
相手はかなり年下で、それも男の子でっせ!?よほどの物好きでない限りそんなキス出来っこないよ!世間的な立場も踏まえてね。
しかし、わたしの唇とレイカちゃんの唇が触れる直前、彼女に異変が起きた。
突如、わたしから逃げるように顔を後ろに反らせて、それから思い切りわたしを突き飛ばしたのだ。
なんだよ……これじゃわたしが襲おうとしていたみたいじゃないか!
そんなことを考えていると、レイカちゃんにさらなる異変が起きた。
いや、最初から変なことだらけんだから、今更異変なんていうのはおかしいけどさ……。
しかし、それにしてもコレはひどい。
レイカちゃんはまるで、悪魔に取りつかれたように手足を振り回している。
ワケのわからないことを口走りながら。
「ちょっと!今、男口説いてる途中なんだから邪魔しないでよ!」
ひょっとして、ほかの人格たちと会話でもしているんだろうか。
いや……とても、会話と呼べるモノじゃないけど。
レイカちゃんの体はビュンビュンと手足を振り回しながら、奇妙なダンスを踊っていた。
いや、それはダンスなんて呼べる代物じゃないけど、それ以外に形容する言葉が見つからない。
言葉にするなら、踊り狂ってる。うん、まさにそんな感じ。
……本当に悪魔に憑かれてるみたいだ。
「ちょっとぉ!髪引っ張らないでよぉ!」
相変わらずレイカちゃんは踊り狂いながら、ワケのわからない言葉を叫んでいる。
誰も彼女の髪を引っ張ってはいないし、彼女の手も自分の髪とはまったく違う部分を掴んでいる。しかもそこは何もない空間だ。さも、そこに自分の髪の毛があって、それを誰かが引っ張っているように。
「アタシの邪魔をしな……」
その時、不意に変化が起きた。
踊り狂っていたレイカちゃんの体がピタッと止まったのだ。
そして、それからレイカちゃんはガックリと両膝を地面につき、虚ろな目で天井を見上げて、そして―動かなくなった。
まるで電池式の人形が、電池切れによってピタリと動かなくなってしまったかのようだ。
「……」
わたしは、それをただ茫然と見つめている。
だって、ほかにどうしろというのだい。
その時、レイカちゃんの頭に着いている木の葉の髪飾りが色を変えながら点滅を始めた。
桜色だったモノが赤色に、そして赤色だったモノが今度は青色に変わる。
あぁ……もうどうにでもなれ。
そうさ……ココ、お化け屋敷って言うじゃないか。だからもう、こんなことでは驚かないぞ。どうせ今度はもっとスゴイことが起こるに決まってるんだ。たとえば怨霊が襲ってくるとか。
そして、色を変え続けた不思議な髪飾りの明滅は、色を黄色に変えたことで落ち着いたようだった。
「ふぃ〜」
かすみくんの姿をした何者かは、そういって額の汗を拭った。
また、かすみくんではない誰かの声。もちろん先ほどのレイカちゃんでもない。
今度の声は、あきれるほど能天気な声だった。
「イッシシィ。みんなが争ってる間にオイラが取っちまったぜぇ。まさに漁夫の利ぃ!」
なんだ……今度はやけにテンションが高い。
髪飾りの色が黄色に変わったのも納得だ。
なんだか、黄色からは『元気』というイメージを受ける。
もしかするとあの髪飾りの色は人格たちの性格に対応しているのかもしれない。
うん、きっとそうだ。あくまでも推測だけどわたしはこの推理が間違っているとは微塵も思わない!(いつもそうだけど)。
きょとんとしているわたしに、イエロー(名前がわからないので勝手に命名。だって彼、かすみくんではないでしょ?)は落ち着きのない動きで近づいてきた。
先ほどのレイカちゃんもそうだが、かすみくん以外の人格は彼と違って活動的らしい。
「よぉ、おっさん。さっきはレイカに迫られてたみたいだなぁ。イッヒヒィお気の毒だぜぇ」
イエローがからかうように笑う。
わたしも思わず苦笑した。
「ああ、本当に驚いたよ」
「だろうなぁ。あのレイカって女はよ、スンゴイ男好きでな?ちょっとでも気に入った男見つけると、さっきみたいにかすみの体乗っ取って口説きにかかっちゃうのよ。まったく困ったもんだぜ」
イエローはやれやれ、という風に肩をすくめた。
やっぱり、ああいう人格がいるとほかの人格たちも迷惑するんだな。
きっと、それは変人と同じ客室に寝泊りさせられるのと同じ感覚なのかもしれない。
どうやっても逃れられない束縛……カッコ良く言うとこんな感じ?
目の前にいる少年(声的に)はまだ、信用しきったワケじゃないけど悪い人じゃないみたいだ。
ちょっと、安心。
「ねえ、君は誰なの?」
わたしの質問に、イエローは「よくぞ聞いてくれました!」とでも言うようにニコリと眩しい笑顔で笑った。
この質問を口にするのにも、そろそろ躊躇がなくなってきた所だ。
「オイラの名前はね、ケンタっていうんだ。みんなにはケンちゃんて呼ばれてる」
ふぅむケンタか……じゃあ、わたしも“みんな”と同じようにケンちゃんて呼ぼうかな。
「それじゃあ、よろしくねケンちゃん!」
わたしが手を差し出すとケンちゃんは飛び上がって喜んだ。
やっぱりノーマル状態のかすみくんとは大違いだ。
ケンちゃんが勢いよくわたしの手を握って、大げさな動作で上下にブンブン激しく振った。
ちょっと手が痛いんで、もうちょい手加減してくれませんかね?
「オッサン結構良いやつだな!気に入ったぜ!」
本当にうれしそうにケンちゃんは笑う。
うん、そういう笑顔わたし大好き。
わたしも君のことは好きになれそうだよ。
「これも何かの縁だ。今日は特別にオイラの遊び場―かすみの部屋に招待してやるよ」
ケンちゃんの表現に思わず笑ってしまった。
自分たちの部屋を遊び場と称しますか(笑)
やっぱり、この子面白い。
その申し出謹んでオッケーしちゃうよ!