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幽霊屋敷の少年は霞んで消えて

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少年


この何ともいえない不思議な雰囲気を醸し出す、少年。
彼はクレミヤ・カスミと名乗った。
しかし、それにしても聞いたことのない名前だ。
やっぱり、ここに住んでる人たちはみんな変な名前なんだろうか。
ポストを眺めまわしながら、そんなことを考えていると、わたしはあることに気付いた。
この子の名前が書いてあるポストがない。
クレミヤ・カスミがどんなヘンテコな字を書くにせよ、それっぽい名前は見つけられなかった。
……となると、あの一個だけポツンとあった空白ポストがこの子のモノということになる。
「ねえ、君の部屋のポストってどれなの」
少年が指差したのは、203号室。先ほどの空白ポストだ。
ビンゴ。
わたしは初めて気づいた風に装いながら、聞いてみることにした。
「あれぇ?名前書いてないみたいだけど……なんで?」
カスミくんはわたしに言われて初めてソレに気付いた様子で、「ああ」というとつかつかとポストの前に歩いて行った。
でも、ペンを持っていないから何も書けない。
カスミ少年はしばらくポストの前でジーッと突っ立っていたがやがて痺れを切らしたように言った。
「おじさん、ペンある?」
「ああ、あるよ」
わたしは懐からマジックペンを取り出すと、カスミくんに投げてあげた。
カスミくんはそれを素っ気なく取り、再びポストに向き直った。
さて、クレミヤ・カスミ……どんな字を書くのが楽しみだ!
……と、思っていたら、カスミくんはさらさらとした動きですぐに名前を記入し終えてしまった。
書かれている名前は、くれみやかすみ。
なんだ……ひらがなかよ。
「なんでひらがななの?」
わたしは半ばあきれながら尋ねる。
「だって、漢字で書くの面倒くさいんだもん」
「面倒くさいって……」
かすみくんは、ついでという風にポストを開けると中から数冊雑誌を引っ張り出した。
どうやら、いくつかの雑誌は定期購読しているらしい。
どんなモノを読んでいるんだろうか。
わたしは雑誌の名前を見ようとしたが、かすみくんがすぐに着物の中に隠してしまったので、どんな雑誌なのかはわからなかった。
「……」
またもや、あのモヤモヤ感。
う〜む……。
わたしが、気難しそうな表情で腕組みをしているのを見るとかすみくんは面倒くさそうな表情をして、クルリと反対方向を向いてしまった。
ああ、そう……関わりたくないのね。
かすみくんが向いた先にあるのは外へ向かうための扉。
彼はつかつか、と扉の前に行くと、相変わらずのボソっとした声で言った。
「じゃ、行くから」
コチラが何かを言う前にかすみくんは外へ出て行ってしまう。
ガチャン。
扉が閉められる音がむなしく、玄関に反響した。
「ふぅ……」
結構、面白そうな子だったんだけどな。
でもまぁ……本人が嫌がってるみたいだし、無理やりやることはないよね。
それに、彼がいなくなったってこのアパートを調べることはできる。
わたしは再び、めぞん跡地の探索を開始した。
静かな玄関にわたしの足音だけがむなしく反響する。
……その時、ドーンというすさまじい音が沈黙を破った。
わたしはビクッと驚き、音のした方向を向く。
誰かが勢いよく外への扉を……いや、その人物は外から開けてるんだから中への扉を開けたようだった。
しかし、その開けた人物を見て、わたしはさらに驚くことになる。
なぜなら、先ほど無愛想に出て行ったはずのくれみやかすみくんの姿がそこにはあったのだから。
かすみくんはしばらく周囲を見回してから、わたしを見つけるとまるで矢のように飛んできた。
先ほどの彼とはまったく違う。
歩き方には、女の色っぽさがり、その顔もまた妖し気で、なおかつ色っぽさのある笑みを浮かべていた。
そう、まるでかすみくんが女になってしまったような……いや、そんなわけはないんだけど。でも……。
かすみくんは目の前までやってくるといたずらっぽい笑みを浮かべてわたしを見上げた。
よく、見ると木の葉の形をしたあの髪飾りの色も変わっていた。
先ほどまで自然の緑色をしていたのに、いまではそれが妙にいやらしい桃色に変わってしまっている。
なんなんだいったい……コレは現実なのか?
わたしはそれを確かめるためにかすみくんに問うた。
「きみ……かすみくんかい?」
そんな、わたしの問いかけにかすみくんは大きな動作で一つうなづいてから答えた。
「そうよ。さっきかすみとはあったじゃない。おじさんもう忘れちゃったのぉ?」
なんだ……俺の聞き間違えか?
かすみくんてこんな話し方する子だったか……いや、ていうかそれ以前にかすみくんて男の子だったよねぇ!?たぶん……。
今、こうして見るとハッキリしない。
女っぽい男にも見えるし、男っぽい女にも見える。
いや……ていうかそれよりも、問題はかすみくんの声色がすっかりさっきと変わってしまっていることだ。
意図的に声を変えているのかもしれない……でも、そんなんじゃない気がする。
かすみくんの喉からは、先ほどの無愛想なボソッとした声ではなく、大人の色気を醸し出す女の声が出て来ていた。
わたしの耳がおかしくなったのか……?いや、それとも……。
「か……かすみくんて男の子……なのかい?それとも女の……子なのかい?」
ああ、もうワケがわからない。
頭がクラクラする。
かすみくん……いや、かすみちゃんは再びいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「男の子だよ。かすみはね」
ああ、やっぱり男の子だったんだ。
納得しようとしたわたしを何かが引き止める。

待て、何かおかしくないか?

おかしいことなんて、ないさ。だって彼が自分で男の子って言ったんだもの。

ああ、たしかに言った。でも、彼はそのあと別の言葉を付け足さなかったか?

え……?別の言葉?。

ああ、そうだ。たしかに言った。
彼はたしかにこういったよ。
“男の子だよ。かすみはね”。
なんとも、奇妙な言葉じゃないか。
自分を肯定するには、あまりにも奇妙な言葉だよ。
そう……それはまるで、自分がかすみくんではないかのような。
でも、たしかに目の前のこの少年の姿はかすみくんそのものだ。
では、どういうことだ?彼……いや、彼女はかすみくんの双子の兄妹か?
そうでなければ、あまりにも容姿が似すぎている。
でも……別の可能性もあるとすれば……。
そう……これならば、彼女がかすみくんと瓜二つなのも納得がいく。
だって、もし本当にそうなのだとすれば、彼女は本当にかすみくんなんだから。
そう……その、可能性というのは……『多重人格』。
解離性同一性障害と呼ばれるこの精神の病は、本来ならば1つしか存在しないその人の人格を分かち、幾数人の別人格を作り上げてしまうというモノだ。
原因の多くは過去のトラウマなどであるとされているが、もしもかすみくんにそのトラウマなどがあったとして、そうすると彼が多重人格者になったとしても、何らおかしなことはない。
……そう、無理やり自分を納得させようとしていた。
苦しいこじつけなのは分かってるさ……でも、それじゃあこれ以外にどうやってこの現象を説明すれば良いんだ。
「きみは、かすみくんなのかい?それとも違う誰か?」
わたしがそう言うと、かすみちゃんはうれしそうに笑った。
「アラ気づいてくれたの?嬉しいっ!」