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ドビュッシーの恋人 no.7

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「こんばんは」

思ったとおり、そこには二年越しに見るクリスティーヌが立っていた。
あの透き通る声が降ってくる。ボンソワール、と。
ミランは思わずその場から立ち上がった。

「クリスティーヌ……」
「久しぶり、だね。ミラン」
「ああ、久しぶり」

まるで出逢った初めの頃のように、ミランは一気に焦り出す。久しぶりに会ったクリスティーヌはシルクのような肌をしていて、少し大人っぽくなっていた。
彼女に話したいことが幾つもあったはずなのに、いざ本人を前にすると何から話せばいいのかわからなくなる。
言葉が詰まってしまったミランを見て、クリスティーヌは可笑しそうに笑った。

「もしかして、緊張してる?」
「うん、ちょっとだけ……」

ミランは恥ずかしげに頭を掻く。
そのとき、時計の針が九時ちょうどを差した。
―――瞬間。二人の頭上に伸びるエッフェル塔が、シャンパン・ゴールドに煌めき出して。
クリスティーヌが「あっ」と小さく感嘆した。

「きれい!」

エッフェル塔は毎時ごとに五分間だけ、この演出が行われるのだ。まるで眠っていた星たちが一斉に輝きだしかのように、ゴージャスに彩られる。
意表を突いたイベントにミランも思わず表情を緩めた。自然と、それまで緊張していた心の糸がじんわりと解けていく。

「クリスティーヌ。あの約束、覚えてるかい?」
「約束?」
「二年前、君は言ったよね。“もし私のことを待ってくれたなら”って話」

クリスティーヌは驚いた顔をした後、嬉しそうに笑って、だけど少しだけ涙を浮かべて、「もちろん覚えてるわ」と言った。

「“次に会ったときは、手をつないで、歩こう”」
「ええ」
「セーヌ川沿いも、シャンゼリゼ通りも、ルーヴル美術館も」
「……うん」
「今度こそ、恋をしようって、僕たち約束した」

何年経っても、この恋の微熱が消えることはなかった。
だからもう、二人には空白の時間なんて、要らない。これからは寄り添って、一緒に日差しを浴びたり、同じものを感じたりしながら、この街を並んで歩こう。

「君を待ってたよ」

誰よりも好きだと誓える。
だからミランとクリスティーヌはまた、この場所で巡り会った。
そして二人の恋が、今、ようやく始まるのだ。

ふと見上げた夜空には、散りばめられた冬の星座。
パリの美しい月が、二人の愛を優しく祝福していた。



[Fin.]