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夏風吹いて秋風の晴れ

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豪徳寺の駅前で


食後の小さめなケーキとエスプレッソコーヒーを飲んで外にでたのは8時になっていた。店を出る前には、直美が気をきかせて、赤堤の家に電話をかけてこれから下北沢を出る事を告げていた。
俺もだったけど、3人全員おいしいものを食べて満足顔だった。
ポケットの中の財布だけが少し寂しそうなだけだった。

小田急線の各駅停車に乗って豪徳寺の駅について、ゆっくりと改札を出ると、そこには叔母さんが待っていて、驚いた事にはその後ろには叔父さんまでがこっちを見て立っていた。
「あっ、遅くなっちゃって・・すいません」
俺より先に気がついたらしい直美が先に頭を下げながら叔母にだった。
「こんばんは、直美ちゃん、いいのよ、こっちこそ、お世話になっちゃって・・」
叔母が笑顔で直美にだった。その後ろでは叔父が、俺に照れた顔を浮かべながら頭を小さく下げていた。
「いいえぇー 楽しかったから、来月から毎月、劉に弓子ちゃんとわたしでイタリアンのディナーをおごってもらうことにしましたから、いいですか?」
「あら、劉ちゃんたいへんね」
叔母がこっちを見ながらだった。
「まっ 月に1回なら・・その代わりに、金が無くなったら叔母さんのところに夕飯をいただきにいきますから」
「いいわよ、いつでもいらっしゃいよ。直美さんとね」
「はぃ、すいません。じゃぁー帰ります。弓子ちゃんまたね」
弓子ちゃんに言って、それから叔母と叔父に頭を下げると、やっと叔父が、
「おっ また、遊びにこいや」
って、初めて言葉らしい言葉をだしていた。それまでは、なんだか、笑顔を浮かべて話をみまもっているだけだった。
「はぃ」
俺が返事をすると、直美が、
「弓子ちゃん、またね、おやすみ」
って言って、弓子ちゃんが、
「はぃ、おやすみなさい、ご馳走様でした」
ってきちんと頭を下げていた。
それを見ていた叔母の顔はとってうれしそうだった。盗み見した叔父の顔もだった。
「気をつけて帰りなさいね」って言いいながら叔母と叔父と弓子ちゃんは右に曲がって歩き出していた。
直美と俺はほんの少しそれを少し眺めていた。口が悪いけど、にわか家族にしてはきちんとそれなりの後姿だった。知らない人が見たら、それはもう立派な家族に見えるはずだった。
「うーん、なかなかいいね」
直美も同じ考えのようだった。
「まっ、あんなもんでしょ・・」
「あんなもんって・・そんな言い方・・・」
「ま、始まったばかりだから・・」
「うん、でも、順調そうだけど・・」
「これからいろいろだろ、のんびりとやってくれるといいなぁー 弓子ちゃんも叔母さんも叔父さんもだな」
「うん、大丈夫よ、さぁ、わたし達も帰ろう」
直美の元気な声が人ごみの豪徳寺駅前に響いていた。
直美が駅まで乗ってきた自転車を俺が押して、横を直美が一緒に歩いていた。
3人は親子に見えたけど、俺たちはどういう風に見えてるんだろうなぁーって考えていた。まぁー 考えたところで、俺たちのことを見て何か考えてる人なんてそういないだろうなぁーってもの思いながらだった。
もうすぐ、静かになっていく豪徳寺の商店街の明かりを背中に感じながらだった。

マンションにたどり着くと、直美が着替えに自分の部屋に戻っていった。こっちも着替えて、のんびりTVを見ていた。学校の授業は来週からだったし、とりたててすることなんてあんまりなかった。
直美が5階の俺の部屋にやってきたのは、それから30分経った後だった。
「夏樹からちょうど電話がかかってきた」
部屋に戻ってくるなり報告だった。
「へぇー なんだって・・」
「大場君のおとーさんの話だった・・何か知らないって?病院によく大場くん行ってるみたいらしいんだけど、病状とか詳しく聞いてないらしい・・心配してるみたい、夏樹・・」
「あれ、そんなに悪いのかなぁ・・検査で念のためって大場言ってたよね?」
大場が教会で1週間前に俺たちに説明をしていた話を思い出していた。そんなに悪いのかって思っていた。
「うん、そう言ってた。ちょっと大場君に聞いてみてよ。夏樹に電話で、劉に聞いてもらうからって言っちゃったし・・悪いのかなぁ・・おとーさん・・大場君そういうの言わなそうだもんね。きちんと聞いてみて」
直美が言うように、大場の性格からするとそうかもしれなかった。
「うん、電話してみるわ」
ソファーから立ち上がって大場の家の電話番号を回していた。
電話はずっと呼び出し音が続いていた。
「だめだ、誰もいないや・・」
「大場君って今は、バイト休んでるんだっけ?」
「沖縄から帰ってきたからバイト再開したかもしれないなぁー おかーさんもいないのかなぁー 家に・・」
時間は9時をまわっていた。
「病院知らないの?」
「聞いてないや・・聞いとけばよかたなぁー」
「そうかぁー でも、連絡とってあげて・・夏樹が心配してたし・・」
「うん。そうだな・・」
言いながら、俺もだんだん心配になってきていた。そういえば、あれから全然大場から連絡がないのもなんだか不思議なことだった。
「なんでもないといいね」
直美がわざと笑顔をつくって俺に話しかけてくれていた。どうやら俺の顔は少し心配顔に見えているようだった。
「うん、そうだな。だいじょうぶだろ」
ちょっと大きな声で答えていた。
無意識だったけど、不安を解消したかったのかもしれなかった。
「うん」
直美が小さく微笑んでいた。お見通しのようだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生