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夏風吹いて秋風の晴れ

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3人の話に2人の俺たち


早めに風呂にはいって汗を流して、布団に入ると直美はワインを少し飲んでいたせいか、すぐに寝息を小さくたて始めていた。なんだかいつもより、くっついて側にいた。
こっちは目を閉じて、静かに直美の寝息を聞きながら、叔父さんと叔母さんのことをめずらしく考えていた。
中学生の終わりごろに、養子にって二人に言われたことを思い出していた。はっきりと自分の口から断って、そのせいでしばらくは、赤堤の家には顔を出さないでいたことを思いだしていた。
東京の大学に通うようになって近所に住むようになってからは、ちょくちょくと赤堤の家にも顔を出すようになったけど、それは従兄弟の詩音が亡くなってから6年ほど時間が開いてからのことだったし、中学生になって叔父さんの家から養子の話が来て、それを断ってからは約4年経ってからのことだった。
その間に、養子をもらう話が叔父さんと叔母さんの所に出ていたのかどうかも知らなかったし、今度の弓子ちゃんの話を聞いたのも半年前の冬の事だった。
個人的には、手放しで今回の事は喜んでいるっていうのが本心だった。
いろいろこれから難しいこともあるんだろうけれど、それはそれだろうって思っていた。とにかく、弓子ちゃんが来てからの赤堤の家の中の細かなことは一切わからなかったけれど、俺にとっては、今夜の弓子ちゃんの相談ごとなどは些細なことに思えて、順調そうなすべりだしに思えていた。
たぶん、瞼を閉じて、寝息をたてている直美も、今夜の弓子ちゃんのことは、そんなにたいした問題ではないと思っているんだろうって思っていた。
弓子ちゃんの話で、なにか、ひっかかるものがあるのなら、ワインを飲んだからといって、俺にその話をしないで寝るような直美ではなかった。
寝顔はいつもどおりのかわいらしさだった。

朝は日課になりだしたジョギングを二人でして、直美はアルバイトが休みだったけど、こっちは今日も下北沢の会社の机に座っていた。店長が休みだったから、朝から簡単な朝礼なんかを仕切ってだった。
夕方までは、いつもどおりに普通に仕事をこなしていると、叔父さんっていうか社長から電話がかかってきていた。内容は、帰りの時間にそっち寄るって事だった。あいかわらずず、自分の用件だけを伝えるとあっというまに電話は切られていた。
7時にちょうどに黒い社用車がやってきていた。連れて行かれた場所は梅が丘の叔父のなじみの寿司屋だった。
「あれっ」
座敷に通されて思わず声が出ていた。車の中では何も言ってなかったけど、そこには叔母さんも弓子ちゃんも直美も先に料理を囲んでいたからだった。
「お疲れ、劉」
直美に言われ隣の開いていた藍色の座布団に座わると、
「お疲れ様ね、劉ちゃん」って叔母さんに言われて、
「こんばんは」って弓子ちゃんにも言われていた。
叔父は、ふーっと言いながら背広の上着をハンガーにかけていた。おれは背広をたたんで部屋の隅にだった。
「さぁー ビールでいいか?劉・・」
すぐに店員さんが持ってきてくれていたビール瓶を片手に叔父に聞かれていた。自分の分はもすでに、コップに先に注ぎ終わっていた。
「はぃ」
注がれると、叔父が、
「さぁー 食べるかぁー」
って大きな声を個室に響かせていた。
寿司屋だったけど、お寿司はまだ並んでなくて、おいしそうなお刺身がテーブルいっぱいに並んでいた。もちろん小鉢もいっぱいだった。
俺は、わがままだったけど、お店の人に言って、谷中しょうがを持ってきてもらっていた。
直美はそれをみながら、
「辛いだけだ思うんだけどなぁー」
って少しだけ香りをかいでいるようだった。
直美は、おいしそうに枝豆をほおばっていた。茶豆っていう実が少し茶色の枝豆だった。甘さがひときわの枝豆だった。
ほとんどの話は、弓子ちゃんの新しい学校の話を中心に盛り上がっていた。たまーに小声で叔父さんが子会社の不動産屋のことを聞いてくるくらいで、他はずっと、弓子ちゃん中心の話しになっていた。
急に本題って話を切り出したのは、お寿司が運ばれてきて、俺がうれしそうな顔をしたときだった。
切り出したのは叔母だった。
「純ちゃんを、弓子ちゃんの妹として迎えようと思うんだけど・・いいかしら・・」
全員に聞こえるようにだったけれど、顔は弓子ちゃんに向かっていた。
「どう、弓子ちゃん?」
叔母が言葉を続けていた。
「えっと、・・・」
弓子ちゃんは、少し声を出して、考えながらのようだった。
「えっと・・それって わたしのためですか?」
「えっ?」
叔母が小さくだった。
「わたしのためを思ってなら いいです・・さびしくないですから」
はっきりとだった。
「違うわよ、この人に、純ちゃんが一生懸命あの家に来た時に、かわいいねってわたしが言ってお願いしたのよ。もちろん弓子ちゃんにも喜んでもらえるかとは思ったけど、それだけじゃないわよ・・そういうことよ。だから弓子ちゃんのためにだけってことで進めてる話じゃないわよ」
叔母がきちんと弓子ちゃんの顔を見ながらだった。
「ほんとうですか・・」
静かな声を弓子ちゃんがだしていた。
「そうよぉ、純ちゃん来たら楽しいと思うんだけど、だめかしら?にぎやかになっちゃうけど」
「わたしは、もう 純ちゃんがよければ・・」
「そう、ありがとう」
うれしそうな顔を叔母が浮かべていた。
だまってやり取りを、見守っていた叔父の顔もほっとしたような、うれしそうな赤い顔だった。
「でも、純ちゃんと話をしてもいいですか?」
弓子ちゃんが聞いていた。
「そうね、弓子ちゃんも純ちゃんと、お話してみて」
「はぃ、明日でもいいですか?」
「そうね、一緒に行こうかしら・・わたしも」
「いえ、1人で会ってきます。そのほうがいいと思うから」
しっかりとした口調だった。
「そう、じゃあお願いするわ、頼むわね、純ちゃん家に来てくれたらうれしいわ」
叔母はうれしそうに、それでいてしっかりとした口調でだった・

「よかったぁ・・」
直美が本当に小さな声で口元を俺の耳もとに寄せながらだった。
黙って俺はそれにうなずいていた。
だけど、なんで俺たちがいる席でなんだろうだった。
いつかは、3人だけで話すようになることなんだろうけど、まだ、やっぱりそういうことなのなぁーって思っていた。
でも、現実的には、おいしい料理が食べられるのには感謝していた。そんな俺だった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生