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夏風吹いて秋風の晴れ

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抱きつかれて抱きしめて


世田谷通り、通称246は幹線道路だったから、それをさけて馬事公苑までの道は結構な距離で、たどり着いて真っ直ぐに折り返しては帰ってはこなかった。
2人でちょっと公園内で休憩をして、それから、園内をまた少し走って、マンションまであと1kmの帰り道の距離からは、走るのをやめて手を繋いで帰ってきていた。充分に走ったから、歩いたって笑顔の直美だった。格好よく言えば、クールダウンしながらお家までってことだった。
マンションに戻ると、直美はそのまま3階の自分の部屋に行ってシャワーを浴びてから着替えをして、5階の俺の部屋に戻ってきていた。のんびりと公園内でも走ったから、時計はもうすぐ9時になろうとしていた。
「お腹空いちゃったよねー」って言って、台所に立った直美は、キュロットパンツ姿で、シャワーを浴びてすぐのくせに、涼しそうな足だった。
「お湯は沸いたみたいだなぁー」って直美に言うと、直美は自分の部屋から持ってきた、そうめんの袋を開けながら「うん」って言いながら、それを俺が用意していたお湯が沸いていた鍋に放り込んでいた。帰りの道で、おれが、「朝から変かもしれないけどそうめん食べようか?」って決まった朝食のメニューだった。
「すぐに出来ちゃうけど、着替えておきなさいよ」
鍋の前で菜箸を動かして、麺をゆでていた直美に言われていた。シャワー上がりで短い短パン姿の俺にだった。
「暑いんだよなぁー まだ・・」
って俺は言い返したいたけど、隣の部屋に言って、適当にGパンとTシャツ姿に着替えていた。戻ると、テーブルに食器を並べていた直美に、
「それじゃなくて、きちんと半そでシャツとかにしなさいよー 青いのあるじゃない、それにしなさいよ、ほら、それなら私となんとなくコーディネートあってるじゃない?」
「えぇー そうなの・・じゃぁー パンツもチノパンとかがいいわけ?」
「そうねー どうせなら、そっちもそうしちゃえば」
「ふーん。そっか」
少しは面倒だったけど、素直に着替えていた。あんまり洋服の事なんかをうるさくは言わない直美だったから、言う時だけは、いつも素直に聞いていた。たぶん、それで得した事って多かったはずだった。
着替えを終えて、戻ると、テーブルにはそうめんと卵焼きとが乗っていた。もちろんそうめんの薬味には直美の好きなみょうがも刻まれておいてあった。
「なにか、他にもおかず作ろうか?ソーセージとかならすぐに出せるけど?」
椅子に座るといわれていたけど、卵焼きで充分だったから、
「いらない、さぁー 食べよう」って直美を目の前の椅子に誘っていた。
「うん」
「いただきます」
「はぃ」
顔を見合わせて、この夏に買った涼しげなガラスの器にはいったつけ汁に、そうめんを入れておいしく2人で食事を始めていた。
「そのシャツって新しい?」
直美の着ていた、半そでのシャツを気になってだった。
「うん、先週に、もう夏が終わりだから大安売りで出てたから、買っちゃった。劉のそのシャツと同じ感じでいいかなぁー って思って」
「それでかよ・・着替えればって・・」
「うん、いいでしょ」
まったく同じペアルックなんて着る気はなかったけど、たしかに、言われてみれば、並んであるくと似たような雰囲気でいいかもって、自分のシャツの袖のあたりを見ながらだった。
「劉、叔母さんちって、自転車でいくんだよね?」
「そうしようかぁ・・」
「うん、1日今日は、運動だね・・」
「そんな距離でもないでしょ、叔母さんちは・・」
「でも、天気いいからいいね。暑くなりそうだなぁー 今日も・・」
なりそうだなぁー って直美が窓の外に目を向けながらいったけど、きっと外はもうとっくに暑いはずだった。もうすぐ8月も終わるのに、今年の夏はなかなか終らなそうだった。
今頃、俺と直美の生まれ育った茨城の田舎なら、外の音に耳をすませばアブラゼミから、ツクツクホーシの蝉の声に変わってるはずだったし、へたすりゃ、気の早いトンボなんかもいそうだったし、大きなヒマワリも立ち枯れて種を落としてるはずだったし、一面の関東平野の田んぼには、緑がいっぱいの稲が、もうすぐ稲穂の実がぎっしりつまりますよーって感じのはずだった。
「暑くなって、夕立とか来るかなぁー」
「夜中がいいなぁー 夕立は・・・お布団に一緒に入ってるときがいいんだもん」
「あいかわらず、雷好きだよな」
「劉も大好きのくせに・・でも、キャーとか言って、抱きついちゃう子のほうがいい?」
「いや、そういうの苦手だから・・」
「じゃー やっぱり私がいいんだ」
そうめんを、つるっと、口に放り込みながら、直美が笑顔でだった。
「うん、そう」
素直に言ったら、ちょっと照れたみたいな顔を直美が浮かべて恥ずかしそうだった。
「ご飯たべてるんだから・・」
「そっちが、先に言ったからでしょ・・」
言い返していた。

食事を終えて、洗物が少なかったから、化粧を始める直美に代わって、台所で洗い物を済ませていた。
終ってから「コーヒー入れてね」って直美に言われていたから、お湯を沸かして、コーヒー豆をミルでゆっくり挽いていると、後ろから直美に腕を体に巻きつかれていた。
「ねぇー いまでも大好き?」
ふざけたような声を出していたけど、うれしそうな声で聞かれていた。
「大好きだよ」
挽いた豆を取り出して、ドリッパーにうつしてお湯を注ぎながら答えていた。
「そうじゃなくて、高校生の頃の劉って、すごーく 私のことを大好きだったでしょ?その頃と変わらずに大好きなの?」
「うん、大好きだよ」
「そっか、ならいいや」
「なら、いいやって・・・」
やかんを置きながら聞いていた。
「だって、私のことは、わたしが知ってるからいいのよ」
体に巻かれたいた直美の手が、ぎゅーってなっていた。
「勝手なんだから・・」
言いながら直美の手に触れながら、体を入れ替えて、直美に向かっていた。
広がっていくコーヒーの香りに包まれながら、直美を抱きしめて自然とキスをしていた。
今日2回目の、ながーいキスだった。
出かける用事が無ければ、俺も直美も、1日こうしていそうな、そんな日だった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生