小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

夏風吹いて秋風の晴れ

INDEX|42ページ/94ページ|

次のページ前のページ
 

お留守番


自転車2台で、マンションから叔母さんというか、叔父さんの家っていうか、まぁーどっちでも呼び名は良かったんだけど、赤い屋根の洋館にたどり着いたのは10時をまわった時間になっていた。
途中で、他の自転車に抜かれることも無く、けっこうなスピードでたどり着いていた。
門にたどり着くと、玄関前を掃除していたのは、隣の教会の若い神父さんの林さんだった。冬までは大学生でここから住み込みの神学生だったけど、卒業してからも、自分の家の教会には戻らずに、しばらくはそのまま、修行って呼ぶのかどうかはわからなかったけど、聖ラファエル教会でかわらずにおつとめをしていた。
「こんにちわ、何してるんですか?林さん」
自転車から降りて聞いていた。直美も一緒に頭を下げていた。
「あぁー こんにちは、お久しぶりですね、柏倉さん、直美さん」
「はぃ、すいません。ここには良く来てるんですけど、教会にはあんまり寄ってないんで・・」
「そうですか。今日はお引越しのお手伝いにいらしゃったんですか?」
林さんは、歳は俺より上なのに、いつも言葉遣いが丁寧で物腰の低い言い方の人だった。
「えー そうなんですけど、林さんは、ステファンさんに言われて掃除ですか?」
直美が、俺が言いたかった事を先に林さんに聞いていた。
「ええ、司祭に、あんさん、もうちょっと気が利く人やったんちゃいますかって言われまして・・」
ステファンさんの口真似をしながら、うれしそうに林さんが答えていた。相変わらず、遠まわしの言い方が好きなステファンさんらしい言い方だなぁーって、それを聞いて思っていた。
「大変ですね、で、ステファンさんは何かしてるんですか?」
そこまで言ったステファン神父は何をしてるんだろうって思って聞いていた。
「たぶん、中で、冷たいお茶でも飲んでるかもしれませんね。さっきまでは、外にいらっしゃったんですけど、暑いわなぁーって言いながら中に入りましたから・・」
「ステファンさんらしい感じです」
あの巨漢ではこの暑さはこたえるだろうなぁーって思いながらだった。
「あっ、お2人はお迎えにいきましたから・・」
「それって、叔父さんも、叔母さんもってこと?」
「はぃ、施設に車でお出かけになりました。ですから、ステファン神父さんが、お留守番というか、なんというか・・」
「自分で、喜んで朝から喜んで押しかけて来たんですよ、きっと、神父さん」
留守番なんかいらないのに、きっと、朝からこの家にやってきて、自分で喜んでその役をかってでたにちがいなかった。
「中にどうぞ、暑いですから・・」
林さんが、自転車に鍵をかけた俺と直美を見ながら声をかけてくれていた。
「林さんこそ、もういいですよ、綺麗じゃないですか、それに、なにもわざわざ、玄関前とか特別に掃除なんかいいですって・・」
「はぃ、もうすぐ終わりますから・・どうぞ、先にはいってください」
「そうですか、もういいですから、林さんも終ってくださいね」
「はぃ」
笑顔で返事をした林さんに2人で頭を下げて、甘えて玄関に歩き出していた。
「これで、ステファンさんが、のんびり本当にお茶してたら、わたし、笑ってもいい?」
「それじゃぁ普通だから、お菓子も食べながらお茶をしてたら笑ってもいいかも・・かな」
「あっ、食べてそう」
直美が、おもいっきりうれしそうな声で笑っていた。

「あがりますよぉー」
「おじゃましまーす」
靴を脱いで、2人で部屋の奥に声をかけていた。
「あんさんですかぁー あがりなはれぇー」
あんさんっていうのは相変わらず俺のことらしかった。
靴を直美が端に揃えて、2人でその大きな声を聞きながら、その方向に向かっていた。
「こんにちは、神父さん」
ソファーに座っていたステファンさんに頭を2人で下げながらだった。
「ま、すわりなはれ、直美さんもこっちに・・」
「はぃ、おじゃまします。ステファンさん、それって、おいしそうですね」
直美が、ステファンさんの目の前にあったお饅頭の箱のことを、そりゃーうれしそうな顔で言っていた。予想どおりというか、期待通りにお菓子を食べていたようだった。
「甘くて うまいでっせぇー なんや、仙台のお土産らしいですわ、出かけるときに、聖子はんが、食べながら待っててくださいね、っていうて置いてきましたんや、どないだ、あんさんらも・・わて、2個もたべましたんや」
「はぃ、いただきますね」
返事をした直美は、笑いを押さえるのがやっとって感じだった。置いてあった箱をみると、2個じゃなく、4個も食べた後が残っていたからだった。
それから直美は、とりあえずお饅頭ってよりも、少なくなっていた神父の麦茶のコップに冷蔵庫から麦茶を取り出して注ぎながら、俺と自分の分と、それから外の林さんの分のコップにもそれを注いでいた。
俺は、それを見て、林さんを呼んで、中に上がってもらうことにして、4人でそのお土産のお饅頭を食べだしていた。
「何時ごろに戻ってくるか聞きました?ステファンさん?」
気になっていたことだった。
「お昼前には戻ってくる言うてましたわ」
「そうですか、えっと、何かすることありますかね、それまで、俺たち・・」
「そうやなぁー のんびりでええんちゃいますか?林が玄関は綺麗にしましたやろ。やっぱり気持ちよぉー迎えてやらんとなぁー。綺麗になったんか?林」
「はぃ」
「そうか、なら、よろし」
ステファンさんは満足そうに、また、お饅頭を口にいれながらだった。
「あんさんらは、聖子はんらが戻ってくるまで、ここに居られるんやろ?」
「はぃ、そのつもりですけど」
「なら、わてらはいったん教会にもどりますわ、戻ってきたら呼んだってや」
「わかりました」
「ほな、また、あとで」
麦茶を飲み干して、巨漢をゆっくりとソファーから起こして玄関に歩き出していた。林さんが、あわてて、その後をだった。

2人で玄関まで見送って、部屋に戻ると、直美に
「2階の部屋を見にいこいうか?」って聞かれていた。
「そうだね」
返事をして、2階に向かっていく直美の後を歩いていた。
「家具置かれてるかなぁー どうなってるだろ・・」
階段の途中で直美が、うれしそうな声でだった。
「うわぁー いいなぁー・・」
声を出した直美の後ろから覗いた部屋は、シンプルで綺麗な部屋が広がっていた。小さなものは何もなかったけど、この何日かの間に、小さい模様が入ったすごく薄いグリーンの柔らかな壁紙に部屋が変わっていたし、ベッドと机と整理ダンスとクローゼットがひんよく並んでいた。
「へぇー 見違えたなぁー」
言いながら直美と部屋の中に入っていた。窓は開いていて、この前来たときに、直美と一緒に吊るしたカーテンが風で少し揺れていた。ベッドには、きちんと新しい布団がかわいい柄のカバーをつけて乗っていたし、枕カバーも真新しい花柄のかわいいものだった。
「叔母さん、楽しかっただろうなぁー 布団とか置く時って・・・」
「そうだろうね・・」
「うん。良かったね」
ベッドに腰をおろして、枕を手で触れながらの直美だった。
自転車に乗って、スピードだして走っている元気な直美も大好きだったけど、目の前のこんな直美ももちろん大好きだった。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生